全譯『大方広佛華嚴經』巻上(江部鴨村 訳,昭和9年)

785〜788頁


菩薩摩訶薩は宝女――侍女・眷属を布施する。それらの宝女はすべての技術を具足し、才能に秀で、言戯に巧みに、威儀そなわり、素直につつましく、よく人のこころを感ぜしめ、装いきらびやかにして天人の心をさえも傾けしめ、語音みやびやかにして荒立つことなく、主に侍して礼をつくし、主の意を失わず、容姿殊妙であって観るものを厭かしめない。かような微妙な千億の宝女はいずれも菩薩の浄業の果報として得たものである。菩薩摩訶薩はしかもこれらの宝女をば無著の心をもって施し、虚妄を離れた心をもって施し、一切の欲に縛せられずに施し、一切の色に著する所なくして施し、欲楽を貪(むさぼ)らずして施し、欲の分別を離れて施し、宝女の姿形に愛惜の想を生ぜずして施す。

 菩薩摩訶薩はかくのごとき宝女を布施して善根を回向する。――一切衆生をして生死を出離せしめんがための故に回向し、

諸仏のあらゆる喜楽を得んがための故に回向し、

堅実ならざるもののうちに堅実なるものを得んがための故に回向し、

壊るべからざる金剛智の心を得んがための故に回向し、

如来の円満なる大衆に回向し、

堅固なる真実を摂取せんがための故に回向し、

無上菩提の心を得んがための故に回向し、

智慧をもって諸法を分別せんがための故に回向し、

あらゆる善根を生出せんがための故に回向し、

三世の仏教に違はざらんがための故に回向する。

菩薩摩訶薩はかような法に住し、如来の家に生れ、一切智の道を生じ、深くあらゆる菩薩の智業に入り、あらゆる世間の塵垢(じんく)をはなれ、宝心を調伏し、功徳円満にして無上の福田となり、広く微妙の法を説いて衆生を安立し、一切衆生を皆ことごとく清浄ならしめて、一切の善根を修習し摂取せしめる。菩薩摩訶薩は宝女・眷属を布施し、それに因って得るところの善根を次のごとく衆生に回向する

「願わくば一切衆生をして無量の三昧の眷属を逮得し、また菩薩の不壊の三昧をえしめよう。

 願わくば一切衆生をして悉く諸仏の荘厳三昧に入って、常にほとけを楽観(ぎょうかん)せしめよう。

 願わくば一切衆生をしてことごとく菩薩の不可思議自在の遊戯(ゆげ)三昧を行じて、無量の自在三昧に安住せしめよう。

 願わくば一切衆生をして如実の三昧に入って、その心を壊(やぶ)らざらしめよう。

 願わくば一切衆生をしてことごとく菩薩甚深の三昧をえて、あらゆる三昧においてみな自由をえしめよう。

 願わくば一切衆生をして皆ことごとく三昧の眷属を成就して、心に解脱をえしめよう。

 願わくば一切衆生をしてよく種々の三昧を分別して、悉くよくもろもろの三昧の相を摂取せしめよう。

 願わくば一切衆生をして勝智三昧をえて、一切もろもろの三昧の門を修習せしめよう。

 願わくば一切衆生をして無礙の三昧をえて、よく決定して不壊の正受に入らしめよう。

 願わくば一切衆生をして無著の三昧をえて、常に念じて不二の三昧を行ぜしめよう。

 願わくば一切衆生をして壊るべからざる清浄の眷属・菩薩の眷属をえしめよう。

 願わくば一切衆生をしてあまねく浄らかな菩提のこころをおこして仏法を満足せしめよう。

 願わくば一切衆生をして一切智のちからを清浄に満足して無上智をえしめよう。

 願わくば一切衆生をして随順の眷属をえて、悉く衆生と意を同じくして安住せしめよう。

 願わくば一切衆生をして一切智の功徳を満足することを得て、あらゆる勝妙の善根を成就せしめよう。

 願わくば一切衆生をして真実の眷属をえて如来清浄の法身を成就せしめよう。

 願わくば一切衆生をして諸弁を成就して、無縛無著にひろく諸仏無尽の法蔵を説かしめよう。

 願わくば一切衆生をしておのおの一切のために善知識となって、あらゆる勝妙の善根を成就せしめよう。

 願わくば一切衆生をして浄業を満足して、一切もろもろの清浄の法を成就せしめよう。

 願わくば一切衆生をして諸仏の浄妙の法門を満足して、もろもろの浄法をもつて世間を荘厳せしめよう」と。

 これが菩薩摩訶薩の宝女・眷属を布施する善根の回向である。