全譯『大方広佛華嚴經』巻上(江部鴨村 訳,昭和9年)

723〜725頁


 菩薩摩訶薩はまたかく回向する「願わくばこの善根をもって一切衆生をして、皆ことごとく無上菩提をねがい求めて、無上の蓋を以ってあまねく衆生を蓋(おお)わしめよう。願わくば一切衆生をして不可称・不可説のあらゆる衆宝にて荘厳せる妙蓋をもって一仏に供養し、一切の諸仏に供養することも亦かくの如くならしめよう。願わくば一切衆生をして自然に覚悟し、ほとけの功徳の高広にして微妙なる蓋をえて、あまねく諸仏を覆わしめよう。願わくば一切衆生をして種々の宝蓋をもって、法界・虚空界に等しい一切世界の諸仏を供養せしめよう。願わくば一切衆生をして諸宝の瓔珞を垂れめぐらして荘厳とせる種々の摩尼宝の蓋・清浄なる雑宝をもって荘厳し、極めて大きく高く広くして、白浄の宝網をそのうえに張りつめ、金鈴の網を懸けめぐらし、おのずから微妙のひびきを立てる一切の堅固香の蓋――かくのごとき蓋の無量無数の蓋をもって諸仏に供養せしめよう。願わくば一切衆生をして礙(さわり)なき智慧の蓋をえて、あまねく十方の一切諸仏を覆わしめよう。願わくば一切衆生をして最もすぐれた智慧の蓋をえてあまねく衆生を覆わしめよう。願わくば一切衆生をして仏の功徳をもって荘厳せる宝蓋をえて、あまねく衆生を覆わしめよう。願わくば一切衆生をして皆ことごとく清浄の大願と諸仏の功徳とを具足せしめよう。願わくば一切衆生をして思議すべからざる清浄の心宝をえしめよう。願わくば一切衆生をして諸法の自在の智慧を満足せしめよう。願わくば一切衆生をしてもろもろの善根を以ってあまねく衆生を覆わしめよう。願わくば一切衆生をして無上なる智慧の蓋をえてあまねく衆生を覆わしめよう。願わくば一切衆生をして十力の蓋をえて、あまねく衆生を覆わしめよう。願わくば一切衆生をして一仏の国土をもって、よく悉くあまねく一切の法界を覆わしめよう。願わくば一切衆生をしてあらゆる諸法において自由をえしめよう。願わくば一切衆生をして心の自由をえしめよう。願わくば一切衆生をして智慧を勝広ならしめよう。願わくば一切衆生をして無量の功徳をもって、悉くあまねくあらゆる衆生を覆わしめよう。願わくば一切衆生をしてもろもろの功徳をもってその心を覆わしめよう。願わくば一切衆生をして平等の心を以ってあまねく一切を覆わしめよう。願わくば一切衆生をして大なる智慧をもって、等しく一切を覆わしめよう。願わくば一切衆生をして大回向を具足せしめよう。願わくば一切衆生をして清浄なる正直心を満足せしめよう。願わくば一切衆生をして意根を清浄ならしめよう」と。

 これが菩薩摩訶薩の種々の蓋をほどこす時の善根回向であって、一切衆生をして皆ことごとく最大の回向を成就して、あまねく覆うてあらゆる衆生を摂取せしめる。


(旧字体、旧仮名遣いは改めました)