全譯『大方広佛華嚴經』巻上(江部鴨村 訳,昭和9年)

721〜723頁



金剛幢菩薩回向品(四)


 菩薩摩訶薩はまた種々の宝蓋をほどこす。それは尊貴のものの用ゆる蓋(かさ)であって、種々の妙宝で荘厳され、無量無辺の厳飾せる蓋のなかで最も立ちまさったものである。その宝益は衆宝を竿とし、金網を以てそのうえを覆い、雑宝の瓔珞を垂れめぐらし、衆宝の鈴をかけ、すがすがしき瑠璃の珠は打ちそよぎ触れあって和雅のひびきを立て、白浄の宝網をからみ合わせ、百千の浄きもろもろの雑宝の網をそのうえに懸けわたし、無量百千億の雑宝で荘厳し、無量億那由他の沈水香・栴檀香・堅固香を薫じ、閻浮檀金で清浄に荘厳している。――こういう蓋の無量無数那由他の数を、離悪の心・広大の心・放捨の心をもって施す。法を求めんがために現在の諸仏に奉献し、佛涅槃の後には塔廟に供養する。或いは菩薩・及びもろもろの善知識に奉施し、或いは法師にほどこし、或いは父母にほどこし、或いは衆僧にほどこし、或いはまた一切の仏法に奉施し、或いは種々の福田の人にほどこし、或いは師長および尊重にほどこし、或いは初めて菩提心をおこせるものに施し、或いはあらゆる貪窮のもの・下劣のものに施し、および求むるものには皆ことごとく施与する。菩薩摩訶薩が宝蓋をほどこす時には斯(か)く回向(えこう)する

「願わくばこの善根をもって一切衆生をして、善根につつまれ、また一切諸仏に蔭護されしめよう。願わくば一切衆生をして智慧の功徳のために覆護(ふご)されて、世のもろもろの煩悩の垢を除かしめよう。願わくば一切衆生をして浄法に包まれて、あらゆる塵労熱悩を滅せしめよう。願わくば一切衆生をしてことごとく如来の内なる智慧の蔵をえ、あらゆる衆生の楽観(ぎょうかん)する所とならしめよう。願わくば一切衆生をして寂静の浄らかなる法をもって自分を覆護し、ことごとく不壊の仏法を究竟することを得しめよう。願わくば一切衆生をして善くその身を覆うて、如来の浄き法身を究竟せしめよう。願わくば一切衆生をして一切のために覆蓋となって、十方の智慧をもって善く世間を覆わしめよう。願わくば一切衆生をして随楽の智慧をえて皆ことごとく世間を超越し、清浄に明達して染着する所なからしめよう。願わくば一切衆生をして応供の蓋をえ、すぐれた福田となって一切の供養を受けしめよう。願わくば一切衆生をして最上の蓋をえて、自然に無上智の蓋をさとらしめよう」と。

 これが菩薩摩訶薩の宝蓋を布施するときの善根回向であって、一切衆生をして法自在の蓋を受持して、一功徳の蓋を以ってあまねく一切の法界・虚空界に等しきあらゆる世界を覆い、諸仏の自在神力を示現して一功徳の蓋をもって法界を荘厳し、諸仏に妙なる幢旛の蓋を供養して、あまねく十方のあらゆる如来を覆い、あらゆる仏国を種々の宝蓋をもって荘厳せしめる。


(旧字体、旧仮名遣いは改めました)