全譯『大方広佛華嚴經』巻上(江部鴨村 訳,昭和9年)

712〜715頁


 菩薩摩訶薩がもろもろの車をほどこす時、かくの如く回向する
「願わくばこの善根をもって一切衆生をして不退転の大乗の車に乗って、不思議なる菩提樹のもとに到らしめよう。
願わくば一切衆生をして大乗の車に乗って、未来の劫を尽してあらゆる菩薩の行ずる法を皆よく修習せしめよう。
願わくば一切衆生をして無所有の車に乗って、あらゆるものに著する所なく、虚妄をはなれて、一切智への道を欠けめなく修習せしめよう。
願わくば一切衆生をしてことごとく離垢寂静(りくじゃくじょう)の車に乗って、無礙の神力をもって諸仏の国に行かしめよう。
願わくば一切衆生をして決定して一切智の車に安住し、つねに諸仏の法楽を以てみずから楽しましめよう。
願わくば一切衆生をしてもろもろの菩薩の浄行の車に乗って、菩薩の十種の道を生起し、菩薩のあらゆる三昧を楽修(ぎょうしゅ)せしめよう。
願わくば一切衆生をして四輪の車たる住正国輪・依正士輪・本功徳輪・平等願輪に乗って、菩薩の浄行をこれによって満足せしめよう。
願わくば一切衆生をして明法の車に乗って、あまねく十方にあそび、ほとけの智力を修めしめよう。
願わくば一切衆生をして仏法の車に乗って、あらゆる法において彼岸を究竟せしめよう。
願わくば一切衆生をしてあらゆる功徳善根の不可思議なる法の車に乗って、十方衆生のために安穏の道を示現せしめよう。
願わくば一切衆生をして一切施の車に乗って、慳悋のおもいを断除せしめよう。
願わくば一切衆生をして清浄なる持戒波羅蜜の車に乗って、無量無辺の法界に等しき清浄の戒法を具足せしめよう。
願わくば一切衆生をして忍辱波羅蜜の車に乗って、瞋恚のこころを離れてもろもろの衆生にたいして悩害を起さざらしめよう。
願わくば一切衆生をして不退転の精進波羅蜜の車に乗って菩薩の行を具えて道場に行かしめよう。
願わくば一切衆生をして禅定波羅蜜の車に乗って、すみやかに道場におもむかしめよう。
願わくば一切衆生をして智慧波羅蜜の車に乗って、変化の身をあらゆる法界および仏の境界に充満せしめよう。
願わくば一切衆生をして法王の車に乗って、無畏のほどこし、及び一切智の微妙の法を成就せしめよう。
願わくば一切衆生をして著する所のない智慧のねがいの車に乗って、あまねく一切の諸方に入り、真の法性において而も入る所なからしめよう。
願わくば一切衆生をして諸仏の法の車に乗って、一切の国に受生を示現して、大乗を毀損することなからしめよう。
願わくば一切衆生をして一切智の車に乗って、菩薩の平等の大願を満足して、懈怠あることなからしめよう』と。
 これが菩薩摩訶薩の種々の車をほどこす時の善根回向であって、歓喜の心をもってあまねく衆生に無量の福田をほどこし、一切衆生をして無量の種智を皆ことごとく具足し、一切智成満の車に乗せしめる。