全譯『大方広佛華嚴經』巻上(江部鴨村 訳,昭和9年)

709〜711頁


 復(ま)たつぎに菩薩摩訶薩が声聞・縁覚に種々の乗物を施すときには、恭敬のこころ・尊重のこころ・福田のこころ・功徳の海のこころ・功徳智慧を生み出だすこころ・深く如来の功徳を信ずるこころ・無量無数の清浄なる善根を修習するこころ・説くべからざる劫において菩薩の浄行を修習するこころ・あらゆる魔の束縛を解脱するこころ・あらゆる魔軍の大衆を摧滅する心をおこし、量るべからざる明浄の智慧をもって、よく一切諸法を分別し、斯くのごとく回向する

『願わくばこの善根をもって一切衆生をして、皆な信頼しうる第一の福田と成り、此の上なき布施波羅蜜を具足せしめよう。願わくば一切衆生をして無益の言語をはなれて、独閑の静かなるを悦び、こころに二念なからしめよう。願わくば一切衆生をして最勝清浄の第一の福田となり、功徳を修習して衆生を摂取せしめよう。願わくば一切衆生をして智慧の地となってよく衆生に無数の善き果を与えしめよう。願わくば一切衆生をして無礙の境界にいたり、最勝の福田を清浄円満ならしめよう。願わくば一切衆生をしてそのこころ無諍三昧に安住して、一切の法の無性を性とすることを解らしめよう。願わくば一切衆生をして無量の功徳を具足し長養して、つねに最勝第一の福田に遇いまつらしめよう。願わくば一切衆生をして無量の自在神力を示現して、随順して清浄の福田を摂取せしめよう。願わくば一切衆生をして量なき功徳の福田を成就して、よく一切の果を与えしめよう。願わくば一切衆生をして真実の福田を成就し、無尽の功徳の蔵を具足して一切智を究竟せしめよう。願わくば一切衆生をしてもろもろの悪法を滅し、ほとけの正法の語句を聞いて、よくことごとく受持せしめよう。願わくば一切衆生をしてあまねく仏法を聞き、解了するところに随って、その徳を虚しからざらしめよう。願わくば一切衆生をしてほとけの説法を聞きて彼岸に到ることをえ、聞くところの仏法をよく衆生のために随順して演説せしめよう。願わくば一切衆生をしてつねに如来の正教の法をねがい、あらゆる九十六種の外道の邪見を除滅せしめよう。願わくば一切衆生をしてつねに賢聖にまみえて、あらゆる最勝の善根を長養せしめよう。

願わくば一切衆生をして明行を具足せるものを楽聞(ぎょうもん)して、つねに対仰することをえ、これと共に同止して、とこしなえに安楽なるに処(お)らしめよう。願わくば一切衆生をして聞くところ虚しからずして、しかも声の響のごときを解り、如来の出生を見しめよう。願わくば一切衆生をしてよく分別して諸仏の正教を知り、仏法を受持する者をことごとく守護せしめよう。願わくば一切衆生をして心つねに悦び求めて仏法を聞持し、よく照して如来の法教を顕現せしめよう。願わくば一切衆生をして深心に如来の正教・一切の功徳を信解せしめよう。願わくば一切衆生をして仏を歓喜せしめ、よく真諦をさとり、内外のものを悉く捨てて大施を徹底せしめよう」と。これが菩薩摩訶薩の声聞・縁覚に種々の乗物を施すときの善根回向であって、よく一切衆生をして無上の智慧をえ、もろもろの神通を浄め、精進し修習して懈怠することなく、ほとけの智力と無所畏とを究竟せしめる。


(旧字体、旧仮名遣いは改めました)