「優しさをありがとう」 | ”ミ”スターAkiraの救急救命室

”ミ”スターAkiraの救急救命室

2012年初頭、“クモ膜下出血&”脳梗塞“で倒れながらも、何とか独り暮らしが出来るまでに。
この間、お世話になった病院や施設、自主トレ用に用意した用具やアイテム、「障碍者でも利用できる施設&レストラン」をDateランダムに記録した個人奮闘日記。

二度の脳梗塞(のうこうそく)で重度の障害が残った夫は
狭心症(きょうしんしょう)の発作をくり返しながら自宅療養を続けている。
...
そして、人との接触を求めて、ときおり外出もする。
冬の一日、急に思い立って遊園地に行った。

広場の隅に車椅子を止め、
私は傍(かたわ)らに立って元気に走り回る
子どもたちを見ていた。

思ったより寒く、早く帰らねばと思った。
そのとき、広場に歓声があがった、ドナルド・ダックが現れ、
子どもたちがどっとかけ寄ったのだ。

ところが、そのあひるさんは子どもたちをかき分けて、
どんどんかけてこちらへ近づいてくる。

広場の隅にいる私たちのほうへ…
そして、車椅子に乗った夫の前に来ると、
大きく一礼して、大きな手で夫の背中を撫(な)でてくれた。
二度、三度。

突然のできごとに、私たちも周りの人も驚いた。
夫の背中を撫でて、今度は私の腕をさすり、
両手で包み込んでくれる。

大きな白い温かい手で…
優しさが老いたふたりを包み、その温かさが周りに広がって、
見ていた人たちのあいだから拍手が起こった。

夫の顔を見ると、涙がほろほろ頬(ほほ)に伝わっている
風の冷たさを忘れた。

「優しさをありがとう」
と言うのが、精一杯の感謝の言葉。

あひるさんはウンウンとうなずいて、
もう一度夫の背中を撫でて、子どもたちのほうへかけていった。

出典元:(涙が出るほどいい話 河出文庫