いつも生きてる意味を考えていた。自分の人生には何か大きな使命があって、いつか何かを成し遂げる人間だと思っていた。俗に言う中二病というやつだ。それが中二どころか30歳を過ぎてもまだそんな夢を見ていた。夢を追いかけてもいない、ただ夢を見ていただけだ。

毎日の退屈な労働。ボーナスやお金を貯めて時々高価なモノや車を買って、一瞬だけの喜びを感じる人生。それでいいのだろうか。そんな悩みを抱えながら生きる苦しみ。人に認められたくて必死に生きた苦しみ。それを全て開放してくれた指導者との出会いから私の本当の人生は始まった。


私には行きつけのバーがある。地方の商店街の一際目立たない地下。カウンターに椅子が5席ほどしかない。30歳を過ぎて行きつけのバーの1つくらいは欲しいと考えてふらりと立ち寄ったお店だ。バーには行き慣れていなかったのでカウンターでお酒を出されても何をしていいのかわからなかった。お酒を飲みながらバッグの中に忍ばせていた文庫本を読むことにした。

「何を読まれていらっしゃるんですか?」

そんなマスターの一声から、マスターと話せるようになった。実はバーには行き慣れていないことを正直に伝えると、「ウイスキーでも覚えてみませんか?」と楽しみ方を教えてくれた。それから時々、そのバーに訪れてはマスターと会話をしながら新しいウイスキーを試していった。

ある日、職場でミスをして上司にこっぴどく叱られた。私としては全く納得がいっていなかった。それをマスターに話していると、偶然隣に座っていた紳士が声をかけてきた。それが私と指導者の出会いだった。

「お仕事大変みたいですね。」

「そうなんですよ。自分ばかりが悪いわけじゃないのに、一方的に怒鳴られてやってられないですよ。」

「ちなみにどんなお仕事を?」

「男ですが看護師をしています。女性が強い職場ですよ。」

「ははは、それは大変そうだ。」

「ええ、もう大変ですよ。」

私は胸の内にあるものを、その紳士に全て吐き出した。初対面とは思えないほど次から次へと言葉が出てきた。それを黙って耳を傾けてくれた。全てを吐き出すと心のつっかえが取れたようでスッキリと眠りにつくことができた。翌朝、自分のことばかり話していたことに気づき、あの紳士はどんな仕事をしているのか。あの人を惹きつける魅力は何なのかを知りたくなった。またあの紳士に会いたいなと思ったのは自然のことのように思えた。


私は仕事を終え、またあの紳士に会えないかと行きつけのバーに足を運んだ。

「マスター、この前の紳士はよく来るんですか?また会いたいなと思いまして。」

「あの方でしたら時々顔を出されますね。本当に魅力的な人ですよね。」

「なんの仕事をしている人なんでしょうかね?」

「さあ、そこまでは聞いたことはないですね。次に顔を出された時にご連絡しましょうか?」

「ああ、ぜひお願いしたいです。仕事で行けないかもしれませんが、行けたら絶対に会いにきます。」

マスターと話をしていると、席の後ろのドアが開きお客さんが入ってきた。

「いらっしゃいませ、、、、ああ!」

マスターの驚く声に私は思わず振り返った。するとまさに今、話をしていた紳士がそこに立っていた。顔を見るなり驚く二人に何事かと思ったようで紳士はこう言った。

「どうかしましたか?」



経緯を話すと紳士は笑顔でこう言った。

「いやあ、嬉しいな。また会いたいと思ってくれるなんて。」

「この前は、自分のことばかり聞いてもらってすみませんでした。自己紹介もまだでしたよね。私はAと申します。近くの病院で看護師をしていることはこの前話しましたね。」

「そういえば私も自己紹介がまだでしたね。私は鈴木(仮名)と言います。」

「今、マスターと鈴木さんの不思議な魅力について話していました。差し支えなければお仕事は何をされてらっしゃるんですか?」

「近くの〇〇という会社で働いていますよ。」
そう言って名刺を差し出してくれた。地元に住んでいる人であれば知らない人はいないであろう会社だった。役職は専務。やはり立派な人だったと思った。

「わあ、〇〇の専務ですか!すごいですね。」

「いえいえ。全く凄いということはないです。」

「よろしければ、出世のコツとか色々と教えていただきたいのですが・・・」

「コツねぇ...」

「些細なことでいいんです。私もいつかは鈴木さんのように立派な人になって、尊敬されるような人物になりたいんです。」

鈴木さんは少し考え込むような表情をして私にこう聞いた。
「あなたは誰のための人生を生きているんですか?」

初めて聞かれた質問に少し戸惑った。誰のための人生?自分のための人生に決まっている。質問の意図が全くわからなかった。少しでもいい答えをしようと思ってこう答えた。
「いつかは鈴木さんのように立派な立場になって、社会のためになるようなことを成し遂げたいと思っています。」

「立派な考えだと思います。だけど、私はそれがあなたの本心だとは思えない。人生は自分のためにある。違いますか?」
まるで心の中を覗き込まれたような気持ちになった。

「おっしゃる通りですね。まさに人生は自分のためにあるものだと思います。だけど、それを言うのが恥ずかし気持ちになってしまいました。取り繕ったようなことを言ってしまいすみません。」

「いえいえ、誰でもそう考えているものです。しかし、そこに大きな問題があると私は思っています。ここがとても大事なことです、人生は自分のためにある。この軸がブレてしまってはいけません。」

「わかりました。しかし、どうしてそれが出世と関係あるのでしょうか?」