一人一秒のプレゼント  『社員みんながやさしくなった』より | S blog  -えすぶろ-

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-人は年をとるから走るのをやめるのではない、走るのをやめるから年をとるのだ- 『BORN TO RUN』より
走りながら考える ランニング・読書のブログ

社員みんながやさしくなった/渡邉幸義
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アイエスエフネットハーモニーという


特例子会社=障害者を雇用するために作る子会社を経営されている


渡邉幸義さんのこの本を読み、深く考えさせられました。


「はたらく」ことの本質を見詰め直す機会にもなる本だと思います。


早速、本の中で紹介されていた


会社見学会に申し込みさせて頂きました。


この本の中で、渡邉さんがご紹介されていた話があり、


とても感動したのでご紹介させて頂きます。


何も付け足す必要の無い本当にいい話です。




『一人一秒のプレゼント』  奥村久美子

(前略)


それは太田先生の前の学校でのお話です。

先生が担当されていたクラスに脚の悪い男の子がいました。

名前は正博で、皆から 「マサ」と呼ばれていました。

マサは右脚が不自由でした。

でも明るい性格で、友達とグランドでサッカーをしたり、


体育の授業にも参加するがんばり屋でした。

その学校にも運動会が近づいて、学級対抗リレーの練習に


熱を入れ始めたころ、その問題は起こりました。

ある日、太田先生が放課後、職員室に残っていると、


マサが入って来ました。

そして元気のない声で言うのです。

「ぼく、学級対抗リレーには出ません」

「どうしてなの」

太田先生はマサの顔をのぞみ込みました。

「・・・・・・・・」


マサはおしだまってうなだれています。

「がんばり屋の君らしくないな。


先生は、マサの走りは素晴らしいと思っているのよ。


マサが一生懸命走っているのを見るとね、


先生ももっともっとがんばらなきゃって思うんだ」


マサは体を固くして、下を向いています。

そして、やっと重い口を開くと、


「ぼくが走ると負けるから。ぼくのせいでクラスが負けるのいやだから」

そう言うと、肩を大きく振りながら、職員室を出て行きました。

次の日、太田先生は、マサと仲のいい子に


どうしてマサがそんなことを言いだしたのか尋ねてみました。

すると、クラスの一部の子が


「マサがいる限り一等にはなれっこない」


と話しているのを、偶然本人が聞いてしまったと言うのです。

その日の学級会で、太田先生は、


マサがリレーに出ないと言っていることと、その理由を皆に話しました。

そして、こんなことも付け加えました。

「リレーは、みんなが力を一つに合わせて


がんばるところが素晴らしいんだよ。


大切な友達を傷付けながら優勝したって、


何がうれしい?どこが素晴らしい・・・」

マサは机をバン!とたたくと立ち上がりました。


「先生、もういいんです。ぼくがちゃんと走れないのが悪いんだから」

みんな下を向いて、沈黙が続きました。

すると、ある男の子が手を上げました。


「マサ、走れよ。クラスみんなが、一人一秒早く走れば、


三十八人で三十八秒早く走れる。そしたら勝てるよ」

その日から、子供たちは毎日遅くまで、


それは熱心にバトンタッチや、走る練習を重ねました。

マサも練習に参加していたことは言うまでもありません。

そして、いよいよ運動会の日、マサはみんなの応援の中、


歯を喰いしばって、最後まで走りました。

そして、クラスメートも、マサへのプレゼントの一秒のために、


全力を尽くして走り抜きました。

他のクラスは、バトンを落としたり、転倒する子もあって、


マサのクラスは本当に一等賞になったのです。

太田先生は、みんなと “バンザーイ” とさけびながら、


涙のむこうの子供らの笑顔がまぶしくて仕方ありませんでした。


(後略)

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