啄木 『悲しき玩具』 | S blog  -えすぶろ-

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-人は年をとるから走るのをやめるのではない、走るのをやめるから年をとるのだ- 『BORN TO RUN』より
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先日

石川啄木 『一握の砂』発刊100周年

という記事を書きましたが、この発刊から1年半後

1912年(明治45年)4月13日に啄木は肺結核のため亡くなりました。弱冠26歳という若さ。

この年、予定されていた通り第二歌集である『悲しき玩具 ―一握の砂以後―』

が発刊されました。

この第二歌集は病床で詠んだ歌も多いのですが、

『一握の砂』同様、現代人にとってとても共感しやすい

いい歌があるのでいくつかご紹介します。



途中にてふと気が変り、
つとめ先を休みて、今日も、
河岸(かし)をさまよへり。 

本を買ひたし、本を買ひたしと、
あてつけのつもりではなけれど、
妻に言ひてみる。

旅を思ふ夫の心!
叱り、泣く、妻子(つまこ)の心!
朝の食卓!

曠野(あらの)ゆく汽車のごとくに、
このなやみ、
ときどき我の心を通る。

人がみな
同じ方角に向いて行く。
それを横より見てゐる心。

この四五年、
空を仰ぐといふことが一度もなかりき。
かうもなるものか?

『石川はふびんな奴だ。』
ときにかう自分で言ひて、
かなしみてみる。

そんならば生命(いのち)が欲しくないのかと、
医者に言はれて、
だまりし心!

思ふこと盗みきかるる如くにて、
つと胸を引きぬ――
聴診器より。



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