よき細工は、少し鈍き刀を使ふといふ
妙観が刀はいたく立たず
『徒然草』第二百二十九段 吉田兼好
妙観とは吉田兼好よりも遥か昔の時代の仏像彫刻の名工です。
「名工は研ぎ澄ました鋭い刀でなく、わざと少し鈍った刀を使う。」
この言葉、含蓄深い、様々なことに通じる格言のような名文です。
この文を引用して評論家小林秀雄はこのように書いています。
(徒然草は)
文章も比類のない名文であって、よく言われる枕草子との類似なぞも
ほんの見掛けだけの事で、あの正確な鋭利な文体は稀有のものだ。
一見そうは見えないのは、彼が名工だからである。
「よき細工は、少し鈍き刀を使ふ、といふ。妙観が刀は、いたく立たず」、
彼は利き過ぎる腕と鈍い刀の必要とを痛感している自分の事を言っているのである。
物が見え過ぎる眼を如何に御したらいいか、
これが徒然草の文体の精髄である。
『徒然草』より 小林秀雄
「あの人は切れる人」
なんて言われているうちはまだまだです。
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