介護現場やケアマネジメントの実務において、「本人の介護意欲はあるものの、認知機能の低下により介護負担や生活管理に支障が出始める」という夫婦世帯のケースは多く見られます。
今回は、脳梗塞後遺症の夫(83歳・要介護3)と、軽度アルツハイマー型認知症の妻(79歳・要支援1申請中)の事例をもとに、初期症状の早期発見とフォーマルサービスの基本構築について分かりやすく解説します。
📌 モデルケース概要
利用者(夫)Aさん(83歳・要介護3)
・脳梗塞後遺症(右片麻痺、軽度構音障害)
・室内杖歩行、屋外車椅子、トイレ自立(手すり使用)
同居家族(妻)Bさん(79歳・要支援1新規申請中)
・アルツハイマー型認知症(軽度)
・物忘れが目立ち始める。IADL(調理・掃除等)に不安があるが、夫への介護意欲は高い
キーパーソン 長女(近隣・車で20分)
・週1回訪問可能。手続きや協力体制が得られる
主な訴え 夫:「妻に苦労をかけたくない。自分でできることはやりたい」
妻:「夫の世話は私がやる。まだ大丈夫」
長女:「母の物忘れが増えて服薬や火の不始末が心配。共倒れにならないか不安」 |
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📑 第1表:利用者及び家族の生活に対する意向
💡 記入のポイント
妻に認知症の初期症状(物忘れやIADLの低下)が見られるものの、「夫を支えたい」「まだ自分でできる」という自負が強く、サービス拒否につながりやすい段階です。妻の意欲や自尊心を尊重しつつ、長女が抱く「火の不始末や服薬管理への強い不安(共倒れのリスク)」を課題としてしっかりとすくい上げ、記載することがポイントとなります。
【記載例】
🔹 利用者(夫)の生活に対する意向
(療養場所・夫婦生活) 「住み慣れた自宅で、これからも妻と一緒に暮らしたい」
(身体機能・自立) 「足は不自由だが、自分ができることは自分でやって妻の負担を減らしたい」
(妻への思い) 「妻には苦労をかけたくない。無理をしないでほしい」
🔹 妻の生活に対する意向
(夫婦生活・介護意欲) 「夫の世話は私がしっかりやりたい。まだ大丈夫」
(家事・生活) 「最近物忘れが増えて料理や掃除が少し大変に感じることがあるが、人に頼らず自分でやりたい」
🔹 家族(長女)の生活に対する意向
(夫婦の安全) 「父と母が安全に自宅で暮らし続けてほしい」
(不安・見守り)「母の物忘れが進行していて、父の服薬管理ミスや火の不始末が本当に心配。二人だけで生活させていて共倒れ にならないか不安」
(協力)「週末の訪問や手続きなど、自分にできる範囲でしっかり協力したい」
📑 第2表:総合的な援助の方針・課題(ニーズ)
1. 解決すべきニーズ(課題)
【課題1】夫の右下肢麻痺および軽度構音障害により、室内での転倒リスクや移動動作の不安定さがある。
【課題2】 妻の認知機能低下(物忘れ)に伴い、夫の正確な服薬管理が困難となり、症状悪化や服薬ミスのリスクがある。
【課題3】妻の調理・買い物等のIADL負担が増大しており、栄養バランスの偏りや火の不始末等の安全上のリスクが生じている。
【課題4】 妻の「まだ自分でできる」という自負により適切な支援の導入が遅れ、長女の遠隔介護による負担や精神的疲労が増大・蓄積するリスクがある。
2. 総合的な援助の方針
Aさんご夫妻が住み慣れた自宅で安全に生活を継続できるよう、夫の身体機能維持と妻の家事負担軽減を図ります。妻の「夫を支えたい」という自負や意思を尊重しながら、キーパーソンである長女および多職種と連携し、服薬管理・食事・生活安全のバックアップ体制を段階的に構築します。
1. 転倒防止と身体機能の維持
通所リハビリテーション(デイケア)の活用や適切な福祉用具の選定・導入により、夫の室内での安全な移動動作を確保し、転倒事故を防ぎます。
2. 安全な服薬管理体制の確立
訪問看護および薬局(薬剤師)と連携し、一包化や服薬カレンダーを設置。長女の週末訪問によるチェックを組み合わせることで、妻の負担を減らしつつ確実な服薬を支援します。
3. 生活・食事支援と火の不始末防止
配食サービスの導入や訪問介護(買い物同行・掃除)を活用し、妻の調理・買い物負担を軽減。栄養バランスの良い食事の確保と安全な生活環境を整えます。
4. 長女との連携とレスパイト体制の整備
長女の負担が過重にならないよう、フォーマルサービスで日中の見守りと介助をカバーし、長女が「キーパーソンとしての役割」に専念できる体制を作ります。
🗓 週間サービス計画(週間スケジュール例)
| 曜日 | 午前 | 午後 |
| 月 | 訪問看護(夫:バイタルチェック・服薬確認) | - |
| 火 | 通所リハビリ(デイケア)**(夫:入浴・リハビリ) | - |
| 水 | - | 配食サービス(夕食配達・確認) |
| 木 | 訪問介護(ヘルパー:掃除・買い物同行) | - |
| 金 | 通所リハビリ(デイケア)(夫:入浴・リハビリ) | - |
| 土 | 長女訪問**(薬のセット・まとめ買い) | 長女訪問 |
| 日 | 夫婦で自宅で過ごす | - |
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🤝 多職種連携のポイント
訪問看護 × 薬剤師
夫の服薬管理において、薬剤師による「1週間分の一包化」と訪問看護師による「服薬カレンダー設置・チェック」を連動させます。これにより、妻の記憶力低下によるセットミスや飲み忘れを防ぎます。
通所リハビリ(PT/OT) × ケアマネジャー
デイケアでのリハビリ成果や麻痺側の状態、日常生活動作(ADL)の変化を定期的にケアマネジャーへフィードバック。自宅の手すり位置調整や福祉用具の見直しに迅速につなげます。
💡 今日のまとめ・ケアマネへのワンポイント
「介護意欲」を尊重しながら、そっと手すりを差し伸べる。
認知症の初期段階では、ご本人の「まだできる」「家族の世話は自分がする」という誇りや意欲を損なわないアプローチが極めて重要です。サービスを「介護の介入」として導入するのではなく、「お父さんのリハビリのため」「お母さんの家事を少し楽にするため」といったポジティブな文脈で提示することが成功の鍵となります。
また、キーパーソンである長女様が孤立しないよう、訪問看護・ヘルパー・配食サービスといったフォーマルな見守り網を早期に張り巡らせ、「共倒れ」を未然に防ぐ基本設計を意識しましょう。