けあくま
 

前回まではALS(筋萎縮性側索硬化症)の病態についてみてきました。ここから、ケアマネジャーはどういったケアプランを立てていくのか、モデルケースをつかって検討してみます。個別のサービス内容は個別性が高いので総合的な方針である第1表、第2表の作成について考えてみます。

 

 

モデルケース

  • 利用者: B様(65歳・男性)

  • 認定: 要介護3

  • 病状: ALS(筋萎縮性側索硬化症)進行中(中期)。

    • 四肢の筋力低下が進行(移乗・移動が全介助)。車椅子使用。

    • 構音障害、嚥下障害あり(刻み・とろみ食)。

    • 呼吸筋の麻痺が進行。安静時の呼吸苦はないが、夜間に息苦しさや頭痛で目覚めることがある。主治医からNPPV(マスク式人工呼吸器)の導入と、将来的なTPPV(気管切開)の選択について説明を受け、検討を始めている。

  • 状況: 自宅で妻(62歳・主介護者)と二人暮らし。

  • 本人の希望: 可能な限り自宅で過ごしたい。呼吸器については「まだ考えたくない」という気持ちと「決めなければ」という焦りがある。


 

 第1表:利用者及び家族の生活に対する意向確認表

【ポイント】

身体介護の負担に加え、「呼吸」という生命維持に直結する不安と、「人工呼吸器を着けるか・着けないか」「どこで(自宅か・病院や施設など)」という重い意思決定への葛藤があることの記載は必要です。

 

【記載例】

  利用者の生活に対する意向
 

● (療養場所)「最期までこの家で過ごしたい」

● (身体)「ベッドから移るのも、トイレも全部介助が必要になってきた」

● (食事・会話)「口から食べたい」「うまく話せないのがもどかしい」

(呼吸・意思決定) 「夜、時々息苦しい。先生から呼吸器の話があった。正直、まだ決心がつかない

(人工呼吸器について) 「機械(呼吸器)をつけてまで生きるのが良いことなのか…でも、まだ妻と一緒にいたい

● (家族へ)「妻に負担ばかりかけて申し訳ない。休ませてあげたい」

 

 

 

家族(妻)の生活に対する意向

● (本人の生活)「夫が望む通り、できる限り家で一緒に過ごしたい」

● (介護負担)「移乗介助が限界。夜も眠れない」「食事がむせて怖い」

(呼吸・意思決定) 「本人の意思を尊重したいが、私自身もどうしたら良いか分からない

(人工呼吸器について) 「NPPV(マスク)なら家でも何とかなるかと思うが、気管切開(TPPV)となると、痰の吸引も24時間必要になると聞く。家で私一人で本当に看ていけるのか、先のことが全く見えず、押しつぶされそうだ」


 

第2表:総合的な援助の方針・生活全般の解決すべき課題(ニーズ)

 

けあくま
 

ALSのケアマネジメントにおいては

①移乗、移動

②嚥下、栄養摂取

③コミュニケーション

④レスパイト

⑤呼吸機能の低下への対応

⑥意思決定支援(ACP) がポイントになりますね!

 

【記載例】

1. 生活全般の解決すべき課題(ニーズ)

 

利用者・家族の意向(第1表より) 解決すべき課題(ニーズ)(~できていない・~な状態)
「移乗が限界」 【課題1】 四肢筋力低下による移乗困難。主介護者の介助量が許容量を超え、共倒れのリスクがある。
「食事でむせるのが怖い」 【課題2】 嚥下機能低下による誤嚥・窒息リスク。安全な経口摂取の継続が困難。
「うまく話せない」 【課題3】 構音障害による意思伝達の困難。本人のストレス増大。
「妻に休んでほしい」「私も疲れた」 【課題4】 介護者の休息(レスパイト)が全く確保できておらず、介護者の身体的・精神的疲労が重度に蓄積している。

「夜、息苦しい」

 

「先が見えず不安」

【課題5】 呼吸筋の麻痺進行により、CO2ナルコーシス(二酸化炭素の蓄積)や呼吸不全のリスクが高まっている。本人のQOL(睡眠の質など)も低下している。

 

「呼吸器を決められない」

「家で看ていけるか」

【課題6】 人工呼吸器の使用(NPPV/TPPV)という生命維持に関わる重要な選択について、ご本人・ご家族が十分な情報や支援体制が分からないまま、重い精神的負担の中で意思決定を迫られている

 

2. 総合的な援助の方針

B様が「最期まで自宅で過ごしたい」というご意向を尊重し、安全な療養生活と介護者の負担軽減を図ります。特に、呼吸機能の維持と、人工呼吸器に関する意思決定支援(ACP)を最優先課題とし、主治医、訪問看護師、難病相談支援センター等と緊密に連携し、ご本人とご家族が「自分たちらしい選択」をできるよう、チーム全体で支援します。

 

①(安全な移乗と身体的負担の軽減) 訪問介護(複数名介助)やリフト導入により、B様の安全確保と妻の介護負担を抜本的に軽減します。

②(嚥下機能の維持) 訪問看護師・STと連携し、誤嚥リスクの管理と「口から食べる楽しみ」の維持を図ります。傾向摂取困難な場合は経管栄養の導入も医師からの説明を受け、検討していただく方針。

③(コミュニケーション手段の確保) 意思伝達装置の導入を早期に検討し、本人の意思が確実に伝わる手段を確立します。

④(介護者のレスパイト確保) 妻の心身の休息のため、医療的ケア対応が可能な短期入所(ショートステイ)の利用調整や、訪問介護の時間を確保します。

⑤(呼吸状態の管理とNPPV導入支援) 訪問看護師による呼吸状態(SpO2, CO2等)のモニタリングを強化します。夜間の呼吸苦を軽減するため、NPPV(マスク式呼吸器)の早期導入と、在宅での安全な使用体制(機器管理・マスク調整)を整えます。

(ACP:意思決定支援) 人工呼吸器(特にTPPV)の「使用・不使用」について、どちらを選択してもご本人の尊厳が守られることを前提とします。主治医や専門職から十分な情報(メリット・デメリット、在宅療養体制、社会資源など)を提供し、ご本人とご家族が繰り返し話し合い、考える時間を持てるよう支援します。ご本人の意思が変わった場合にも、その都度柔軟に対応できる体制を整えます。

 

まとめ

 

けあくま
 

ALSは運動神経の障害により体の各部位の運動が制限されるものの、知覚や脳の認知機能においては障害を受けません。「頭がはっきりしたまま」自身の体の機能に向き合わなくてはいけないのです。患者さんの尊厳保持、ご家族の意思決定のために、本人とのコミュニケーション手段の確立はプランの中に忘れてはいけない要素となりますね。