北非核化への道、一層険しく 秘密施設の開示に踏み出せず
「(北朝鮮の)金正恩(キム・ジョンウン)委員長との関係は良好だ。別れるときも、握手をして友好的に立ち去った」
2度目の米朝首脳会談が不調に終わった後、ハノイ中心部の高級ホテルで数百人の報道陣を前に記者会見したトランプ米大統領はこう強調した。
しかし、昨年6月のシンガポールでの初会談に続き、トランプ政権が目指しているはずの「全面的かつ検証可能な非核化」からは依然、程遠い結末に終わったことで、報道陣からは厳しい質問が相次いだ。
今回の会談で改めて鮮明となった最大の問題点は、金正恩氏が自国の核兵器や弾道ミサイルの戦力、核施設の存在を開示し、国際査察を受け入れて廃棄する意思を依然、固めていないということだ。
米政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)によると、北朝鮮には東倉里(トンチャンリ)の他にも未公表の弾道ミサイル基地が約20カ所存在する。寧辺(ニョンビョン)の核施設に加え、「カンソン」と呼ばれる秘密のウラン濃縮施設の存在も指摘される。これらの全容を北朝鮮の自主的な申告を通じて把握しない限り、国際機関などによる査察や検証を伴う全面核放棄の実現はあり得ない。
トランプ氏とポンペオ国務長官はこの日の記者会見で、米側は首脳会談でこれらの基地や施設に言及。トランプ氏は「北朝鮮はわれわれが知っていることに驚いていた」と語った。北朝鮮側の態度は「北朝鮮は核を体制維持に不可欠とみており、非核化の可能性は低い」とする米情報機関の分析を裏付けるもので、非核化交渉の前途は極めて厳しいといわざるを得ない。
また、昨年相次ぎ中止された米韓による大規模合同軍事演習について、トランプ氏が「しばらく前に諦めた」として今後の実施に否定的な考えを示したことが、朝鮮半島有事の即応態勢に関する日米韓の不安を拡大させるのは確実だ。
一方で、トランプ氏が今回、金正恩氏から「核・弾道ミサイル実験を引き続き行わない」との言質を引き出したとしていることは、数少ない成果といえる。
弾道ミサイルを信頼性のある兵器として配備するには発射実験を数十回、繰り返す必要があるが、米本土に到達可能とされる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「火星14」(射程8千キロ以上)は2回、「火星15」(1万2千キロ以上)は1回の発射実験しか行われておらず、実用化には程遠い。
その意味でミサイル発射の凍結が「米国をより安全にする」というトランプ氏の主張は全くの嘘ではない。しかし、非核化に結びつく実質的な合意がいつまでもできないようであれば、交渉の瓦解(がかい)は必至だ。トランプ政権は剣が峰に立たされつつある。(ワシントン支局長 黒瀬悦成)