図面を1枚仕上げるのに1日かかる人もいれば、数時間で仕上げてしまう人もいます。
その差は、単純にCADを操作するスピードの違いではありません。
作図する図面の意図を読み取り、どのような手順で仕上げていくかを
考えるまでの「思考時間」の違いです。
経験豊富な設計者ほど、この思考時間が短くなります。
それは頭の回転が速いからではなく、これまで積み重ねてきた経験によって、
「次に何をすればいいか」が自然と見えているからです。
一方で、新人や経験の浅い設計者は、どうしても手が止まる場面が多くなります。
「どう描けばいいのか」ではなく、「何から考えればいいのか」が分からないからです。
これは決して能力の問題ではありません。
経験や知識がまだ十分ではないため、考える時間が長くなるのは当然のことです。
設計者は数多くの図面を描き、その中でパターンや考え方を身につけていきます。
同時に、「分からないことをどう調べれば答えにたどり着けるか」
という力も身につけていきます。
例えば、JIS規格。
配管を接続するためにエルボの寸法を調べたいとします。
ある程度経験がある設計者なら、「この内容ならこの規格に載っているだろう」
と見当をつけ、必要な情報へたどり着けます。
しかし経験が浅いうちは、どの規格を見ればよいのか、その調べ方すら分からず、
そこで手が止まってしまいます。
もちろん、自分で調べて答えを見つける力は、設計者にとって非常に大切です。
ですが、5分、10分と調べても答えが見つからないのであれば、
素直に聞いてしまった方が早いこともあります。
質問することは恥ずかしいことではありません。
その一つひとつが、自分の知識となり、次に同じ場面に出会ったときの引き出しになります。
若手は「こんなことを聞いたら恥ずかしい」と思ってしまうことがあります。
一方で、ベテランになると、今度はプライドが邪魔をして質問しなくなる人もいます。
だからこそ、私は「分からないことは聞く」という姿勢を大切にしてほしいと思っています。
もちろん、年齢の近い先輩に相談しやすいのであれば、それでも構いません。
ただし、一つだけ忘れないでほしいことがあります。
私は仕事をお願いするとき、必ずこう伝えます。
「私の言うことを100%信じるな。」
指示した内容も、作図する構造も、参考図面も、すべてです。
「言われたから。」
「前の図面がそうだったから。」
そう考えて描いた図面は、思わぬミスを見逃してしまうことがあります。
実際に、「なぜこう描いたの?」と聞くと、
「そう指示されたので。」
「前の図面がそうだったので。」
という答えが返ってくることが少なくありません。
もちろん、私も完璧ではありません。
作業指示に漏れがあるかもしれません。
検討した構造に干渉が残っているかもしれません。
だからこそ、「私の言うことを100%信じるな」と伝えています。
指示された内容でも、一度自分で考える。
参考図面でも、本当に正しいのか確認する。
そして、自分が描いた図面ですら疑ってみる。
そうした積み重ねが、設計者としての判断力を育てます。
作図が早い人とは、CADの操作が速い人ではありません。
考え方の引き出しが多く、迷う時間が少ない人です。
その引き出しは、経験だけではなく、「調べること」「質問すること」、
そして「疑うこと」を繰り返すことで少しずつ増えていくのだと思います。



