「主力の位置は、本日の唯今、北緯四十二度、東経百六十五度。北海道の真東、千八百キロというところだ」
「すると、敵艦隊は、今日になって、進路を急に西の方へ、向け直したことになるぞ」
「藤戸の云うとおりだ」横から相槌を打ったのは、先刻から黙々として、探偵小説に読みふけっていた紙洗大尉だった。「布哇から、ミッドウェーの東方|沖合を、北西に進んでいた筈だから今日になって、進路を真西に向けたとなると……」
「そりゃ、こうサ」藤戸大尉が即座に引取って答えた。「いよいよ敵艦隊は、吾が艦隊と決戦を覚悟したのだ。これから敵艦隊は、南西へ下りて来るぞ。決戦の日の位置は北緯四十度東経百五十度附近と決った」
「青森県の東方一千キロ足らずの海上ということになるね」紙洗大尉は、探偵小説を伏せて、いつの間にか、その代りに、海図を拡げ、その上にキャラメルの艦隊を動かしていた。
「俺は大したことは望まんが」千手大尉は、ワザと神妙な顔をして云った。「大航空母艦レキシントン、アルカンター、シルバニアの飛行甲板を、蜂の巣のように、孔をあけてやりたい」
「ウフ、それが大したことでなくて、何が大したことなんだ、あッはッはッ」
「うわッはッはッ」
聞いていた二人の士官が、腹を抱えて笑い出した。
「何しろ相手は、輪形陣だ、その中心の、そのまた中心にいる航空母艦だ。鳥渡、手軽にはゆくまいな」
「輪形陣が、破れまいと、確信しているところが、こっちの附け目さ。ナニ構うことはないから、平気でドンドン、飛行機を進めて行くさ、輪形陣の中に、こっちが入って行けば自信を裏切られて吃驚する。そこへ、着弾百パーセントという特選爆弾を一発、軽巡奴に御馳走して、マスト飛び、大砲折れサ、ヤンキーが血を見て、いよいよ腰をぬかしている隙に、長駆、大航空母艦の上に、五百キロ爆弾のウンコを落とす」
「うわーッ、千手の奥の手が始まった。もう判った。やめィ」
「おい千手。それが本当なら、念のために、貴公に先刻報告のあった米国聯合艦隊の陣容を、教えといてやろう」紙洗大尉は笑いながら、ポケットから、ガリ版刷の「哨戒隊報告」を拡げて読み出した。