認定こども園に潜むリスク | KCR総研代表 金田一洋次郎の証券アナリスト日記

認定こども園に潜むリスク

 静岡県牧之原市で通園バスに取り残され3歳の児童が熱射病で亡くなるという、あってはならない痛ましい事件が起こった。過失とはいえ、人的なミスが重なり起こったことは間違いなく、人災といっても過言ではないだろう。

 再発防止に向け、管理体制を見直すことはもちろんだが、ここでは、認定こども園だからこそ、起こったかもしれない可能性について検証したい。

 そもそも、この「こども園」という制度は、国が待機児童問題を解決すべく、2006年に鳴り物入りで作った制度である。ご存じだと思うが、保育園と幼稚園は、所轄官庁も違うし、保育目的も違う。保育園は、厚生労働省所管で、その名の通り、保育が目的である。働く女性にとって、絶対に必要な施設である。

 対して、幼稚園は、基本的に幼児教育が目的である。従って、所管は文部科学省であり、働く女性のためというよりは、児童のためであって、園によっては、スポーツや英語なども取り入れ教育が充実しており、児童への目線で、これまでの歴史が培われてきたという側面がある。

 言うまでもないが、待機児童問題は、大きな都市問題と化し、それを解消すべく、2006年に「こども園」の制度を国が整えた。当時、全国で約2万人の待機児童が存在する一方で、幼稚園の利用児童は10年間で10万人も減少していたからである。この背景は、国の政策で女性の社会進出を促したということもあるが、実際のところは、労働者派遣法により、正社員の数が減少し、全体的に夫の給料が減少したことにより、家計を支えるべく妻が働きに出ざるを得なくなったからにほかならない。

 つまり、0歳児から保育できる保育園の人気が圧倒的に高まる現象が起こったわけであり、保育園と違い、幼稚園の標準的な保育時間は、教育のために預かるわけだから、4時間と保育園と比較して半分以下である。だから共働き家庭には人気がないばかりか、そもそもニーズに合っていないから利用児童が減少し続けたわけである。

 ここに目をつけたのが国で、ならば、幼稚園にも保育をしてもらおうと、鳴り物入りで作ったのが「こども園」である。こども園は、保育園と幼稚園を合体したものだが、それぞれの所轄官庁が違うため、現在、内閣府が所轄官庁ということになっている。ここに縦割り行政の弊害がある。所轄官庁の権益を整理しないまま、待機児童解消の目的で設立を急いだため、認定こども園のタイプには4つも分類ができてしまったのである。

 さて、今回の事件に戻ろう。今回の事件は、幼稚園という名前の園で起きたと聞く。とすれば、もとは幼稚園で後から保育園の機能を加えて認定こども園にしたのではないかと推察される。幼稚園の就学年齢は3歳からであるから、死亡した児童は年少の部類に入り、幼稚園機能だけから考えれば、最も目を離せない年齢ということになる。

 それでも、見落としたのは、保育園児の2歳児がいたからではないだろうか。つまり、2歳児に目を囚われて3歳児を見落とした。バスには6人乗っていたというが、あとは3歳児が1名、5歳児が3名とのことだ。就学前のこどもは、個人差が大きく、ましてや3歳ともなれば、一瞬たりとも目を離せない年齢である。

 国は、こども園のメリットばかりを謳うが、幼稚園からこども園になりたくない施設の声も相当数あったと記憶している。経済だけみれば、幼稚園も保育機能を取り入れて大型化するメリットもあるだろうが、大型化すればするほど、児童に目は届かなくなる。

 今回の事件を契機に、児童たちや働く女性のためにも、もう一度、こども園の在り方に不備がないか整理してほしいと願っている。

金田一