先週、福田首相が北朝鮮が日本人拉致問題の再調査を約束した見返りに、手法で合意できれば、経済制裁を一部解除する方針を打ち出した。このことについて、今日の日経新聞朝刊2面によると、17日の会見で福田首相は「なんでもかんでも解除するわけではない」と述べた。与党内では「強硬」「融和」が混在している模様。

 筆者自身、拉致被害者のことについて、何か取り組んだことも、言及したことがありません。横田めぐみさんをはじめ拉致され、遠い異国の地で強引に人生を変えられた人たちがいるという事実が、公に認識されたのは事件から十数年経った1997年からのことでした。今日のように拉致問題が外交で最優先に取り上げられるようになったのは、世論の力によるものであり、それはご家族のみなさんによる息の長い地道な活動の賜です。自分がこれまでまったく発言することがなかったことをたいへん申し訳なく思います。拉致被害に遭われたみなさんとご家族、友人のみなさんへのお詫びと反省を踏まえて、これから取り上げていきたいと思います。

 先週14日土曜日の朝刊を読み返してみると、政府が13日に公表した日朝実務者協議の内容は次のとおり

 北朝鮮は安否が明らかになっていない日本人の拉致被害者の再調査を約束。日本側は生存者を発見し帰国させるための調査が必要と主張、北朝鮮側は否定せず。
 拉致問題は解決済みとの従来の立場を北朝鮮側が変更したと日本側はみなし、一定の前進と評価
 北朝鮮側は「よど号」ハイジャック事件の犯行グループの日本への引き渡しに協力する用意を表明。両国は引き渡しに向け今後調整。
 拉致被害者の再調査の手法に関する両国の合意を条件に、日本側は2006年以来の経済制裁を一部解除。対象は北朝鮮との人的往来、北朝鮮からの航空チャーター便の乗り入れ規制、北挑戦への渡航自粛、北朝鮮への国家公務員の渡航見合わせなど。
 民間の人道支援物資を日本で積み込む場合に限り、万景峰号を含めた北朝鮮籍船舶の入港を認める。人の乗り降りや金銭、嗜好品の搬入は認めず。
 日本政府による人道支援物資の供与は考えず。
 日本側は北朝鮮の核問題を巡る六カ国協議合意の経済エネルギー支援に加わるだけの進展とみなさず。
 「過去の精算」について日朝双方が基本的考え方を述べ、今後も議論していくことで一致

 拉致問題は解決済みとしてきた北朝鮮が「再調査」を約束した。この変化は確かに大きい。しかし、横田めぐみさんのご両親は、制裁解除には難色を示しておられる。

 北朝鮮の狙いは何か?と考えるにはまず米国との関係が根っこにある。

 北朝鮮は「核保有」を交渉カードに使って「金正日体制」存続の保証を米国から得るのが基本戦略
 そのために、米国によるテロ支援国家指定と敵国通商法の解除を目指している。

 米国のテロ支援国指定
 国際テロ活動を支援しているとみなした国家を年次報告書で指定し制裁を科す制度。北朝鮮は日航機「よど号」ハイジャック犯を保護しているなどの理由で1988年に指定された。米国はアジア開発銀行(ADB)など国際金融機関による指定国向け融資に反対することになっており、経済が疲弊する北朝鮮は解除を強く求めてきた。

 六カ国協議 
 米政府が強硬な態度で北朝鮮を動かし、日朝対話を促してきたのはかつてのこと
 2006年10月、北朝鮮は核実験を行い「核保有」を宣言し、これ以降、米国は対話路線に変更、米朝交渉が進むほど日朝交渉の必要性は薄れていった。
 北朝鮮の核問題を巡って国際的に取り組まれてきたのが六カ国協議。日米韓中ロが参加する協議で北朝鮮は「核放棄」を確約。核関連施設を封印するなどの「初期段階」を履行したが、「第二段階」は履行しないまま期限を5ヶ月半すぎている。「核放棄」の見返りとされる重油95万トン相当のエネルギー支援は約4割にとどまっている。
 このような状況の中で、米国は「六カ国協議の進展には日朝関係の改善が重要」と説得してきた。

 また、米国から見た対北朝鮮戦略を考えてみると、もっと大きな対中国戦略が背景にあることはまずまちがいない。「他国に基地をおいていない」との言は中国がよくいう米国へのあてこすりだが、中国の場合は深刻な人権問題を抱えており、自ら「内政不干渉」を主張せざるを得ない立場。一方、人権、民主主義を標榜する米国は東西冷戦時代から日韓をはじめ戦略的に多くの国に基地をおいてきた。そもそも、朝鮮が南北に分断され、民族が二つに分かたれたのも、この米国の戦略と中国、旧ソ連の影響が大きい。そして、現在は主に米中間のパワーゲームの中で朝鮮民族の統一や北朝鮮による拉致というテロの問題が扱われている。だから、国際的には拉致問題よりも核問題の方が優先されがちになってしまう。

 日本政府は、解除するチャーター機の日本乗り入れ禁止について「そもそも日朝間にチャーター機の往来などない」と影響は少ないとしている。北朝鮮船舶の入港禁止や北朝鮮からの全品目の輸入禁止などは続ける方針。しかし、民間の人道支援物資を積む場合に限り入港禁止を解除するといっても、それが制裁の抜け穴になりはしないかとの見方もある。
 拉致問題の追求、解決には、私たち民衆が自分自身の生活をテロから守るという純粋で強固で素朴な主張が最も大きな力になりうると思う。もう騙されないぞ!という強い思いをいくら示しても足りないくらいだ。