オレンジ色の夕焼けが川面に映えるころ、自分は橋詰めに立っている。腹が減ってくらくらする。川魚の燻製作りで生計を立てているが、今日は昼飯抜きだった。こうして橋詰めに立っているのにはわけがある。橋の向こうからやってくるウサギを待ち伏せているのだ。
ウサギの巣は川の向こう岸にあるが、ヘビがうようよしているので橋を渡ってこちらで川の水を飲む。やがて日が沈み、暗がりから二本の縦耳が見えた。ウサギはクンクンと鼻を効かせて様子をうかがう。いつもと違う・・・けむりの匂い・・・火事だろうか? でも、いい匂い・・・ピョンッピョンッと跳ねてウサギは橋を渡りはじめる。
自分はとっつかまえようと身構える。飛びかかってとっつかまえるタイミングは、ウサギが橋を渡りきる前だ。渡ってしまったらすぐ茂みの中に隠れてしまう。ウサギが跳ねて橋の中央を過ぎ、こちらにもう二飛びしたとき、自分はさっとウサギの前に立ちはだかった。
ウサギは驚いた。いきなり人間が現れたことと、いい匂いの主がその人間であることに驚いた。しかも、その人間が飛びかかってくる。ウサギはピョンッと跳ねて逃げるがここは橋の上、まもなくして体の大きい人間に追い詰められてしまう。逃げ場を失ったウサギはすっかり気が動転して思わず川に飛び込んでしまう。ところが、ウサギはカナヅチだった。
自分は川岸に降りて川に入り、溺れているウサギを抱き上げた。体毛に水を含んだ体をバタバタさせて暴れるウサギ。
ウサギ:「俺を捕まえて食らうのかー!チクショー!」
自分:「ウサギがしゃべったー!」
自分は驚いて手を離したところ、ウサギはまた川に落ちて溺れる。
ウサギ:「手を離すなー!俺は泳げないんだ!」
自分:「おまえウサギだろ!なんで話すんだ!?」
ウサギ:「動物が話せないと思っているのはおまえら人間だけだ!」
自分:「とにかく、おまえを連れて岸にあがるぞ」
自分はウサギを抱えて岸に上がり、草むらの上で腰を下ろした。ふたりしてぜーぜーと荒い息をしている。
ウサギ:「とうとう捕まっちまった。煮るなり焼くなり好きしやがれ!」
自分:「何いってんだ!?俺はおまえを食らうつもりはないぜ」
ウサギ:「じゃあいったい何の用だ?」
自分:「燻製用の窯には鍵がかけてある。これがその鍵なんだが、このとおりずいぶん錆びちまって、今日の昼開けようとしたら開かなくなっちまった。適当に削らないと錠前が開かないんだが、ヤスリなんかありゃしねえ。そこで俺は考えた。いつもここに水を飲みに来るおまえさんのその出っ歯でこの錆びを削れないかってね。」
ウサギ:「なんだそんなことかい。どれ、鍵かしてみな。」
ウサギは鍵の錆び具合をよ~く確かめてから、前歯をあてがい、目にもとまらぬ速さで小刻みに振動させ始める。ヴィ~~ンヴィ~~ンヴィ~~ン♪やがてウサギは川の水で錆びを含んだ口をうがいして、鍵を洗う。自分の方へ振り返ったウサギは鍵を高らかと掲げる。すると、鍵は川面に反射する月明かりでピカピカに輝いていた。
自分は無事に窯の鍵を開け、食事にありつくことができた。もちろん、今宵はウサギと二人で宴を開き、夜遅くまで飲み明かしたとさ。
おしまい。