彼はスマホ画面の中の男女の営みをぼんやり見つめていた。
クライマックスの瞬間、男性が体勢を変え、呼吸を整え、狙いを定めるように素早く動く。
絶頂の瞬間でさえ、身体を支え、位置を調整し、目的に向かって動ける男の姿。
そして液体を放出する。
映像の中の女性は、言葉にならない声を漏らし、体を震わせ、力を失っていた。
男は動ける。女は動けなくなる。
ぶっかけと言う行為をみる度に、男の意識はその差に取り憑かれる。
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男性が絶頂の瞬間でも動けるのは、主に射精が反射的な身体反応であり、筋肉の制御を奪わないため。
一方で女性は、骨盤周辺の筋肉や自律神経が強く連動しやすく、快感の波が身体の力を奪い、動けないほどの“拘束感”が生まれることがある。
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相手が合意している状況で性行為としてぶっかけを行う男性。
“受け入れられている” という安心感が本質である。
自分の最もプライベートな部分を相手が肯定的に受けとめてくれることが、強い自己肯定感に直結する。
精液が相手の肌に広がる視覚刺激そのものが、性的興奮や満足感につながる。
身体的に無防備になる瞬間を相手に委ねるため、“この相手とは深いつながりがある” と感じやすくなる。
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写真の中の女性にぶっかけをする男。
この場合、相手を傷つけたいわけでも、支配したいわけでもない。
届かない美しさを象徴的に“自分のものにする”感覚。
写真の上の白濁液という目に見える痕跡から自己の存在を確認する安心感。
といった、現実では言えない気持ちを妄想空間で収めるための手段である。
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女性に体液をかけたことで、捕まる男性のニュースはしばしば放送される。
非同意で実在する女性にぶっかけを行う男性は、多くの場合、女性そのものを人として受け止めていない。
彼らの関心は「相手の反応」ではなく、自分の内部の力感・優越感を一瞬だけ取り戻すこと。
劣等感、支配願望、孤立感の歪んだ発散と言える。