寒くなり、車内は厚いコートの層が人々の身体を包む。

周囲の誰もが自分の世界に沈んでいるように見えた。


特急列車の次の駅までしばらく時間がある。もてあます退屈。

男はバッグを胸の前で抱え、少し強めに腕を組む姿勢をとる。


外から見れば、ただ寒さに身を縮めているようにしか映らない。


だが彼の意識は、服の上から指が触れる刺激で、乳首のあたりに静かに波立つ感覚へと向かっていた。


男の乳首は、平坦な胸部の中に埋もれ、そもそもその存在すら忘れられる。

しかし、わずかな刺激が繰り返されることで、じんわりと腰の奥に伝わり、
ゆるやかに骨盤底筋群の収縮が動きだす。


外界は変わらず、誰も彼に注意を払わない。
その「気づかれない」という事実は、
かすかな緊張と奇妙な安心を同時に呼び起こし、
感覚をわずかに鮮明にする。


ふと、スマホに没頭していた女性が顔をあげ、視線が合う。


分かるはずはない。

そう分かっているのに心はざわつく。


指の動きは心なしか遅くなる。しかし、始まってしまった腰の奥の波はとどまることを知らない。


視線が絡み合う時間は、永遠のように感じられる。

女の視線はまた元のようにスマホに戻る。


波はゆっくりと高まる。

裏スジと連動する場合に比べると感覚は鈍い。

しかしその波は、徐々にはっきりと姿を現す。そしてついには快感のプラトーに達する。


いつまでも浸っていたいような快さ。
さらに大きな波となると平静を装うことはできないだろう。

その迷いの中、突如、駅が近づくアナウンスが流れる。

彼は動きを静かに止めた。


腰の中の波打つ快感は、

ホームに降りても、まだ消えず、
身体の奥で小さく痙攣するように響いていた。

彼はその感覚を抱えたまま、
少しフラフラと足取りを乱しつつ改札へ向かっていった。