今日ご紹介するのは、シティ・カマルディン監督の「ドラゴン・ガール」(2014年、YASMINE)で、日本では劇場での一般公開はされていない。しかし、作風とは全く異なる邦題とビジュアルでアピールしないとDVDが売れないのだろうか、と悲しくなってしまう。

原題の「ヤスミン」は主人公の名前で、

しかも普通の女子高生。ドラゴン・ガールのイメージとは程遠く、東南アジアの格闘技であるシラットを通して彼女が成長する姿を描いたドラマだ。我々にはなじみの薄い小国「ブルネイ」製の映画で、同国初の女流監督の作品ということらしい。

厳しい父親(レザ・ラハディアン)に男手ひとつで育てられたヤスミン(リヤーナ・ユス)は、父親と2人暮らし。

私立高校に仲の良い友だちもいたが、学費を払うのが厳しく、公立に転校せざるを得なくなる。

これまで通っていた私立高と打って変わって、ヤスミンは、制服も級友も何もかもが「ダサい」と悲観する。

そんな公立高校だが、ブルネイって、主人公含め、高校生が車を運転して通学できるみたいです。少なくとも自転車通学のシーンはなかった。

そんなとき、ヤスミンの初恋の男子アディがシラット国際大会で優勝し、国の英雄として帰還する。ヤスミンの通っていた私立高校時代の天敵でシラット部の女子チャンピオンのデヴィ(メンタリ・デ・マレール)がアディと仲良くなっていくのを見て、

彼を自分に振り向かせたい一心でシラット部に入部する。同じクラスの男子Roy Sungkonoと、痩せるために入部した女子Nadiah Wahidを含めて部員は3人だけ。

しかも、シラットなどできそうにない怪しいコーチ(Dwi Sasono)は、何の実践的指導もできない有様。

校外に、今は車椅子の身のシラットの達人Agus Kuncoroを見つけコーチを依頼し、何とか大会に出場する。しかし、ヤスミンの父親は娘がシラットをすることを断じて許そうとせず、

コーランの家庭教師をつけ、ヤスミンも部活に時間が割けなくなる。

実はヤスミンの父親は元シラットの選手で、試合相手の身体を不自由にしてしまったことからシラットとは縁を切った人間であった。

しかも、なんとその相手がヤスミンたちの新しいコーチであった。分かりやすいストーリーだな。

自分がシラットを熟知した人間であることを娘に打ち明け、その必殺技で、離れにある娘の部屋を一撃でバラバラにしてしまうのはやりすぎだけど。

特訓の甲斐あって、力を付け、大会を勝ち進む主人公たちだったが、

初恋の相手アディ(アリル・ファラク)が振り向いてくれるようになり、幸せなひとときを味わうヤスミンは練習もサボるようになり、チームメイトとの関係もギクシャクし始める。まさに青春ドラマそのものじゃん。作り手側は面白く作ったつもりなんだろうけど、映画を観慣れている者にとってはすべて展開が読める王道パターンで、新鮮味はない。でも、一種懐かしいとも言えるドラマ作りを好ましく観ていられる楽しさもあります。

クライマックスは、ヤスミンが通っていた私立高校との決勝での恋のライバルとの試合だ。

格闘技そのものを見せる映画ではないので、あくまで普通の女子高生の日常を描いた青春ドラマとして楽しみたい。日本からの直行便もあるブルネイ・ダルサラーム(永遠に平和な国)という美しい小国に少し興味が湧いてくるような一作であった。