何十年も映画を観ていると、好きな映画や監督はたくさん浮かぶんだけど、一番のお気に入りは、と訊かれると、監督はサミュエル・フラー、作品はフラーの「最前線物語」と答えるだろうなぁ。

今日はそのサミュエル・フラー監督の「拾った女」(1953年、Pickup On South Street)を取り上げたい。

混雑したニューヨークの地下鉄車内でのスリのシーンから始まる。

獲物に近づくスリのスキップ(リチャード・ウィドマーク)のアップ。

続いて、ハンドバッグの中の財布を狙われる女、キャンディ(ジーン・ピータース)のアップ。スリのシーンと、それを見張るFBI捜査官たち。冒頭の5分ですでにワクワクして画面に釘付けにさせられる。

実は、キャンディは知らなかったが、バッグの財布の中には、彼女の恋人である共産主義工作員(リチャード・カイリー)が渡した極秘マイクロフィルムがあったため、どうしてもスリを見つけてマイクロフィルムを回収せねばならない。

共産主義者をマークしていた捜査官にミルバーン・ストーン(中)、捜査に協力するタイガー警部にマーヴィン・ヴァイ。

タイガー警部は、元スリで情報屋のモウ（セルマ・リッター）からスキップの情報を聞き出す。

スキップと捜査官、組織との攻防が見どころの映画である。アクションシーンもあるが、

三者の駆け引きがストーリーの要となる。予想しなかったスパイ戦に巻き込まれながらも逞しくふてぶてしい主人公を演じたリチャード・ウィドマークはまさにハマリ役。

また、セルマ・リッターはアカデミー賞助演女優賞にノミネートされる演技で(この作品で4年連続ノミネート)、彼女が出ているだけで魅了されるほど、不思議な存在感を示す。

悪い男2人の板挟みになりながら身も心もズタズタになりつつ、最後にはスキップを命懸けで救おうとするひたむきさと健気さと色香が同居したような女性を演じたジーン・ピータースの捨て身の演技も加わって、フラー自身もヴェネチア国際映画祭サン・マルコ銅獅子賞に輝いている。

低予算、早撮り(独立プロでは10万ドル、10日というものもあるとか)で知られるフラーだが、決してB級ではない一級品の娯楽映画を作り続けてきた。私の好きな「鬼軍曹ザック」、「ショック集団」などと並んで、本作も間違いなく強烈で個性的な映画です。