40年以上前からイギリスの冒険小説にのめり込んだ私が最も多く購入したのはハヤカワ文庫だが、この文庫はスパイ小説やミステリなどのラインナップも魅力的であった。サスペンス傑作を多く生んだウィリアム・アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ)は、ヒッチコックの「裏窓」、トリュフォーの「黒衣の花嫁」、「暗くなるまでこの恋を」などの映画の原作でも知られているが、

今日ご紹介するロバート・シオドマク監督の「幻の女」(1944年)もそうした名作の1つだ。私も原作を若い頃に読んでいる。

妻と言い争って1人飛び出したスコット（アラン・カーティス）は、バーで偶然隣り合わせた目立つ帽子を被った女（フェイ・ヘレム）を誘って、妻と行く予定だったショーを見に行く。2人は名前も身分もお互い明かさないまま別れる。

帰宅すると警察に囲まれる。妻が絞殺されていたのだ。帽子が特徴の女性と一緒だったことを訴えるスコットだが、出会ったバーのバーテンも舞台の関係者もタクシーの運転手もみんな口を揃えて、スコットには女性の連れはいなかったと証言し、彼は死刑を宣告される。

スコットに秘かな恋心を抱いていた彼の秘書のキャロル（エラ・レインズ）は素人探偵となって、帽子の女の行方を追う。

バーテンの後を付けるが、その後バーテンは殺される。

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スコットを検挙した警部（トーマス・ゴメス）も、スコットの無実を信じるようになりキャロルを支援する。

さらに、スコットの親友ジャック（フランショット・トーン）も彼女を援助する。

キャロルはショーで演奏していたドラマー(エリシャ・クック Jr.)にも近づき、貴重な証言を得る。

キャロルがジャズのセッションに参加するシーンなども盛り込まれる。

ついに幻の女の行方を突き止めたキャロルだが、犯人の魔の手はすぐ近くまで迫っていた。

原作は、死刑を宣告された主人公がひとり幻の女の行方を追い求める感じだったと思うが、映画では代わりに秘書がその役を担うため、アラン・カーティスの出番は少ない。

時には情報を得るためセクシーになり、時にはか弱く恐怖におびえるキャロル。主人公に代わってエラ・レインズを中心に物語が展開していくことで、単なるミステリでなく映画としての面白さが増した。

主人公はそんな女性の部下を持って幸せである。さらにオフィスの受付嬢(ケイ・ハーディング)まで美人だなんて。いやいや、これこそ幻ですぞ。