最近、私の住む街の市役所からこんなメールが来てます。「本日、〇〇市〇〇で、シカの目撃情報が寄せられています。シカを見かけても、危険ですので近づかないように注意してください」。「昨日から本日にかけて、〇〇市大字〇〇にて、イノシシの目撃情報が寄せられています。イノシシを見かけても、危険ですので近づかないように注意してください」。

と、いつもの前振りが終わったところで、今日の映画は「街の野獣」(1950年、ジュールス・ダッシン監督)である。ロンドンを舞台に、酒場の客引きをする若い男を描いた作品だ。

主人公のハリーはいつも一攫千金を夢見ている若者だ。山師やチンピラという言葉がぴったりのろくでもない男をリチャード・ウィドマークが好演している。

ハリーの恋人メアリー(ジーン・ティアニー）は、酒場で働きながら彼が堅気になることを願う。まったく望みはない男に尽くし続ける。

インチキ酒場の主人にフランシス・Ｌ・サリヴァン、彼と何とか別れたいが彼に頼らねば生きていけない妻の女主人にグーギー・ウィザース。

隣人(ヒュー・マーロウ)に金を借りるメアリー。このシーンはとても印象に残る。彼はハリーのことを「彼は作品のない芸術家だ」と評する。観る側は「薄っぺらいハリーより、この隣人と一緒になったほうがずっと幸せだろうに」と思うが、彼女にはハリーだけしか見えていないのだ。

ハリーは女主人からだまし取った金を元手に、引退したレスラーを抱き込んで一世一代のプロレス興行を計画する。グレゴリウスを演じたのは実際のプロレスラー、スタニスラウス・ズビシュコ。後ろは弟子のニコラス(ケン・リッチモンド)。

それを聞いて黙っていられないのが、ロンドンのプロレス興行を一手に牛耳る興行界のボス。演じたのは、ピンク・パンサーなどでおなじみのハーバート・ロム。しかも、彼はハリーが抱き込んだレスラー、グレゴリウスの息子であった。

ハリーは、このボスお抱えのレスラーで「人殺し」と呼ばれる男(マイク・マズルキ)とニコラスとの対戦を組んで興行界のボスを承諾させる。しかし、練習場所で2人は闘うことになる。

大きな夢ばかり見ているが、実現も出来ず大悪党にもなれない薄っぺらい日々を送る男。そんな小者のチンピラを全身全霊で演じたウィドマークの存在感がとにかく凄い。彼が大きな夢を見れば見るほど、恋人メアリーの存在は薄れる。ダメな男を愛し続ける健気なジーン・ティアニの出番がどうしても少なくなってしまったのは残念。しかし、レスラーの演技も素晴らしく、他の俳優たちが負けじと熱演している一作である。