暑い日が続きますね。35℃超えると屋外では危険を感じるほど。猛暑はつらいよ、ということで今日はお馴染み、山田洋次監督の「男はつらいよ 寅次郎物語」(1987年)を紹介したい。シリーズ50作のうち3分の2程度は観ているのだが、このブログではなぜかほとんど取り上げていない。ブログで紹介しづらい類の映画というイメージがあるのかも。ちなみに、本作は10年前に数作まとめて購入して、ついうっかり見るのを忘れて今に至った、情けなくも貴重な一作である。

 

冒頭で関東鉄道の中妻駅が出てくる。40年近く前の駅舎だが、私のような年齢になると、映画の中に子供の頃に見かけた風景が出てくるだけでも懐かしいものだ。

 

ちなみにこちらは現在の駅舎。今でも小ぢんまりした駅で、何となく素敵。

 

映画は、満男(吉岡秀隆)が秀吉という子供(伊藤祐一郎)を連れてくるところから幕を開ける。秀吉は、寅次郎の香具師仲間の政の遺児で、「俺が死んだら寅を頼れ」という父の遺言に従い郡山から寅を訪ねてきたのだ。女・酒・賭博に溺れるひどい父親で、秀吉の母親のふでも蒸発した。寅が秀吉を連れて母親探しの旅に出るロードムービー的な一作になっている。

 

妹さくらを演じた倍賞千恵子はこのとき40代半ばだが今は80代、主演の渥美清も、おいちゃんの下絛正巳、おばちゃんの三崎千恵子、タコ社長の太宰久雄、御前様の笠智衆、源公の佐藤蛾次郎、テキ屋仲間の関敬六など、主だった出演者はみんな他界している。彼らの生き生きとした演技を見られることは本当に有難いことだ。

 

マドンナは秋吉久美子。それまでのマドンナ役と比較すると異質でしっくりこない感じはあるのかもしれないが、個人的にはとてもよくて、本作の出来栄えのよさに対する彼女の貢献度も決して低いものではないと思う。

 

画面への露出が多いのがタコ社長の娘役の美保純。脇役としての好演が印象的だ。

 

和歌山駅前の2人。秀吉の母親の勤め先が判明するがすでにやめていた、の繰り返しでなかなか見つからない。当時の私は地方回りの記者として全国を回っていて、まさにこの時代にこの景色を見ていたから余計懐かしい。駅からどこに取材に回って、お昼に何を食べたかも40年経っても憶えているんである。なのにこのDVDを買ったことを10年も忘れていたなんて(涙)。

 

伊勢志摩でついに母親ふでの居所を探し当てる。後ろは船長のすまけい、ふでの勤務先の女性に河内桃子。

 

ふで役には五月みどり。

 

旅館で秀吉が熱を出す。男はつらいよの9~13作に二代目のおいちゃん役で出演していた松村達雄の老医師役が素晴らしい。右端は旅館の主人を演じた笹野高史だ。

 

男はつらいよシリーズには何作か出演している笹野だが、まだ40歳手前のこの頃のほうが個人的にはいいなと思ったりもする。

 

このほか、イッセー尾形、正司敏江、

 

クレジットはされていないが、出川哲朗(左端)も寿司屋の息子役で登場する。

 

若い頃は、身勝手で周囲に迷惑ばかりかけている寅次郎という非現実的な存在をあまり好ましく思えなかった部分もあるのだが、年をとればとるほど、人間らしさや人情味などに心を動かされることが増えてきたような気がする。個人化が進み、人と触れ合わずに電車やバスに乗ったり買い物したりできるような世の中になっても、他人のためにこれだけ親身になって行動する主人公や、それを温かく見守る家族や地域の人たちを描いたドラマは、むしろ現代人、若い世代の人たちの琴線にも触れるのではないだろうか。人を陥れたり、見下したり、暴力をふるったりを見せ場にするようなものは、もう現実社会で十分、うんざりだ、という人が1人でも多くいてほしいものだ。