マカロニウエスタン続きなので、たまには古い日本映画でも……って、「人情紙風船」(1937年)なんて75年前の映画だ。古すぎたか。監督の山中貞雄は、これより2年前の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺 」が実にすばらしい作品だったなあ。私の映画鑑賞が1970年代あたりまでのものに集中しているのも、最近のつまんない映画を見るより満足度がはるかに高いからである。



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本作は、河竹黙阿弥の歌舞伎『髪結新三』を映画化したもので、貧乏長屋に住む住人たちのドラマだ。27歳にして山中監督の遺作になってしまった。悪いこともするんだが、正義感も強く、人情味たっぷりの粋な髪結の新三を演じたのは、中村翫右衛門。70年代まで映画やTVに出ていたから私の世代ならかろうじて分かる。



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河原崎長十郎は俳優の長一郎・次郎・建三兄弟の父親である。彼が演じる浪人の海野又十郎は、清貧に甘んずる日々だが、あまりにも人が良すぎて見ているだけで歯がゆい、ダメな男である。



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優しいようでちゃっかりしている家主に助高屋助蔵。



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ヤクザの大親分の源七に市川笑太朗。言うことやることに一本筋が通っていて、単なる悪人として描かれてない。今の世の中は普通の人間のほうがこの親分よりよっぽど理不尽で性悪でタチが悪かったりする。



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その子分には市川莚司。加東大介ですな。



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白子屋の娘に霧立のぼる、そのほか、又十郎の女房を演じた山岸しづ江は、河原崎長十郎の奥さん。



貧乏ながらもユニークな長屋の連中を描きながらも、実に暗く、やりきれない作品である。ちょっとしたやりとりや情景すら、哀切をかきたてる小道具のようではあるが、暗く哀しいほどにリアルな佳作だと思う。




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