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エンタメ探検隊!

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皆さま、長らくお待たせいたしました! 
広大なエンタメの海を泳ぐのに、あると嬉しい羅針盤。エンタメ探検隊が、今回は名古屋の誇るエンタテイナー、太田忠司さんに突撃インタビューを行いました!
いつも読んでくださる皆さま、ありがとうございます! 今回も楽しんでもらえると幸いです。
それでは、Let’s Go!

インタビュー会場にて、太田忠司さん

福田和代(以下、福田)「私が太田さんの本を初めて読んだのは、阿南シリーズの『Jの少女たち』でした。友達が『ちょっと、”JUNE”とか”やおい”なんて言葉が出てくる本を、男の人が書いてるよ!』と言うので、そりゃたいへんだ、とみんなで読んでみたんです。そうしたら、この人本当にJUNEとか読んだみたいだよ、ひええ、というところから太田さんの本に入りました。それにしても、太田さんは本当に多作な作家さんですよね」

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太田忠司さん(以下、太田)「自分ではあまり多作だとは思ってないんですけどね」

福田「これは2013年のブックマーク・ナゴヤというイベントで、太田さんが小路幸也さんと対談された時のチラシです。おふたりの全作品(当時)の一覧が載っているんですけど、小路さんも決して寡作ではないのに、太田さんの作品の多いこと。150冊くらいですか」

ブックマーク名古屋資料

太田「文庫化を合わせると139冊です」

福田「『星新一ショートショート・コンテスト』でデビューされたのが1981年ですね」

太田「長編デビューしたのは1990年です」

福田「24年で139冊ですか、やっぱりすごいじゃないですか」

太田「毎日必死になってただけなので」

福田「心強いですね。私も毎日必死で書いていたら、いつかはそのくらいになるのかなあと。人気シリーズがたくさんおありなんですけど、太田さんの思い入れのあるシリーズについて伺いたいのですが」

太田「思い入れはね、どのシリーズについてもあるんだけど。仕事を始めた時にひとつ方針を立てて、出版社から注文がきたら、ひとつシリーズを立ち上げる。新しいシリーズを各社にひとつずつ作る。そうすると、どれかは生き残るだろうと思ったんですよ。とにかく、生き残りたかったので。幸か不幸か、ほとんどのシリーズが生き残っちゃったんですけど」

福田「すごく戦略的な感じですね」

太田「サラリーマンを8年やってまして、仕事として作家に転職した以上、自分なりに生き残っていくための方法を考えなければいけないと」

福田「会社ではどんなお仕事をされていたんですか」

太田「会社は自動車の部品メーカーで、工場の品質管理をやっていました。トヨタやホンダに自動車のヘッドランプなどを卸していたんです。自動車メーカーは納期が命なんです。工場のラインを止めるわけにはいかない。真夜中でも、部品が足りなくなったら運ばなくちゃいけない。そういう生活をしてきたので、作家になっても納期厳守です。それやらないと、信用をなくすと」

福田「わかります。私も金融のSEをやっていたんですが、前職での考え方が今も生きているように思います。太田さんも工学部ですよね」

太田「電気工学です」

福田「私は化学工学だったんですけど、なんとなく似ている感じがするなあと勝手に思わせてもらっていまして。真面目な考え方が、作風にもきっちり反映されているようです。最新刊の『死の天使はドミノを倒す』(文藝春秋)などは『無伴奏』(東京創元社)に近く、生真面目で弱い者に寄り添う印象を受けました。その太田さんの原点をお伺いしたいのですが、星新一さんのショートショート・コンテストでデビューされる前から、お書きになっていたわけですか」

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太田「ショートショート・コンテストでのデビューは、大学四年の頃でした。書き始めたのは高校に入った時で。子どもの頃はまったく本を読まなかったんです。周りに本を読む環境がなかったので、その当時は漫画も読んでないんです。中学三年のときに学校の図書室に入って、たまたま手に取ったのは小林信彦さんの『大統領の密使』だった。その前に、ポプラ社の『少年探偵団』を親戚からもらって面白いなと読んでいたけど、そこで途絶えていたんです。小林信彦さんの本を読んだ時に、小説ってなんて面白いのかと思った。それで本を読み始めたんです。小林信彦さんってミステリをすごく読んでいて、ヒッチコックマガジンの編集もされた方で、本についてのエッセイ集もありまして。それを読むと、高木彬光とか横溝正史とか鮎川哲也について書かれていたんですよ。それで読み始めたんです。SFも星新一さん、小松左京さん、筒井康隆さんに入っていった。角川文庫に横溝正史とかが入って、何でも読めた時代です。面白いと思うと同時に、じゃあ自分も書こうと思いました」

福田「ええっ?」(キョトン……)

太田「僕はすごい勘違いをしていて、本を読んで、面白いと思ったら書くものなんだと思っていたんです

福田「ユニークな考え方だと思うんですが、どこからそう考えたのでしょう」

太田「それはまったくわかりません。そういうもんだと思っていた。受けた感動は自分も作ろうと」

福田「受けたものは返さなきゃという感じですか」

太田「読んで面白いのなら、書いたらもっと面白いだろうと思って。高校の頃には読むと同時に、ショートショートを書き始めてました。後になって、そういう考え方をする人はほとんどいないと気づいたんだけど」

福田「楽しい考え方ですよね。それでプロになられたんですから、すごいことです」

太田「プロになるまでがまた長かったんですけどね。大学の頃に、初めて長編を書きました。本格ミステリのつもりで書いたんです。高校で生物部にいたので、その仲間を登場させました。当時は生物部員でピラニアを飼っていたんだけど、餌にする金魚を隣の水槽で飼っていたんです。餌の時間になると、生きた金魚をピラニアの水槽に入れて、パクッとやらせるんです。それがけっこう評判になっていて、女の子たちがキャアキャア言いながら見に来るんです。ところが、夏休みにピラニアが死んじゃったんです。サーモスタットが壊れて、水温が四十度ぐらいに上がっていたんですよね。その時、僕は夏休みに長崎の親戚のうちに行っていていなかったんだけど、学校に出ていくと仲間が『お前が犯人だ』と言うんです。長崎にいたから絶対にできないんだけど、だからこそ怪しい、何かのトリックを使ったのに違いないと」

福田「何の話ですか(笑)」

太田「まあ冗談なんですけど。『えっ』と思ったと同時に、じゃあ、もし僕が殺せるとしたら、どうやって殺したんだろうと考えたんです。時刻表を開いて考えてみたら、ひとつ方法が見つかった。これなら僕はピラニアを殺せる! それで、ピラニアを殺す話を書き始めたんです。それだけだと面白くないんで、最初の章では、僕がピラニアを殺せるということを、鮎川哲也風に別の生物部員が時刻表をチェックしながら追い詰めていくようにしたんです。次の章では僕が主人公になって、小栗虫太郎の文体を真似て部室全体を黒死館みたいに描いたんです。ペダントリーをいっぱい詰め込んで、その部室が、実は密室だったということにして。密室トリックがどうやって解かれるかという話にしたんです。そして、他の部員を次の犯人を指摘する。次の章では、犯人扱いされた部員が、ハードボイルドタッチで事件を追い掛ける。その結果、時刻表トリックを解いた最初の探偵役が犯人扱いされて、一巡する。円環になっているんです。そしてみんなの推理を合わせると真犯人がわかるんです」

福田「面白そうじゃないですか。それはプロになられてから、どこかで出されたんですか」

太田「原稿がどっかに消えちゃいました。時刻表トリックは、霞田志郎もので使いましたが」

福田「もったいない! その頃にはもう、本格ミステリでいこうと考えておられたんですか」

太田「それもありました。本格ミステリの長編も書きたいし、ショートショートも書きたい。星さんのショートショート・コンテストも、最初は講談社文庫のフェアの一環として始まったんです」

福田「ショートショートも入選して、本になったんですよね」

太田「『ショートショートの広場』という本にまとまりました。『ショートショートランド』という雑誌が創刊されたので、送ってみて、良かったら載ったり。まだ、とてもデビューしたとは言えないような」

福田「学生時代はショートショートを中心に書いておられたと」

太田「就職して仕事しながら、ショートショートを書いては送って、です」

福田「長編デビューされたのが1990年で、八年間は会社で仕事をされていたということなんですが、ショートショートを書きながら長編も書いておられたんですか」

太田「その頃、同じようにショートショートを書いていた作家の卵たちが、東京でグループを作っていました。それが『Aんi(あんい)』というんですが、そこに誘われて入ったんです。同人誌を作り、みんなで原稿を書きながら、講談社に行って編集者と面会するという、ショートショートに関する圧力団体みたいになっていたんです。でも『ショートショートランド』が廃刊になってしまって、書く場がなくなった。どうしようかと思っていたら、『ショートショートランド』の編集者が講談社の文三(文芸図書第三出版部)で講談社ノベルスを担当した。それが宇山日出臣さんという伝説の編集者です。宇山さんが、綾辻行人さんを1987年に『十角館の殺人』でデビューさせて、これから若手の本格ミステリ作家を出していくと決めた。ショートショート・コンテストでつながりがあったので、Aんiのメンバーに『あんたたちの中でミステリを書ける奴はいるか』と声をかけてくれた時に、手を挙げたわけです」

福田「もう書いたことあるし」

太田「うんそう」

福田「人生ってわかんないですね、どこでどんなきっかけにめぐりあうか」

太田「ショートショートコンテストがなくなった時、自分の命運が尽きたと思っちゃったんですよね。これで書く場がなくなったし、本なんか出せやしないだろうと思ったのに、そんな話になって。グループの中で、最初に斎藤肇さんがデビューして。奥田哲也さん、井上雅彦さん、矢崎麗夜さん(現在の矢崎在美さん)というメンバーも次々とデビューしました。僕は『Aんi』というのはトキワ荘みたいなものだったと思っています」

福田「それが1990年のデビューにつながったんですね。太田さんといえば、最初は新本格のイメージが強かったですけど、ハードボイルドであったり、社会派ミステリだったり、SFもお書きになるし、『目白台サイドキック』(角川文庫)シリーズのようにファンタジーやライトノベルに近い感覚の作品もあるし、作風が広い感じがするんですけど。それは志されてそうなんでしょうか」

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太田「ショートショートを書いていたことが大きいと思うんです。ショートショートの規定は長さだけなんです。ジャンルはなんでもかまわないんです。ショートショートの感覚で書いていたので、中身についてはあまり意識をしていなかった。もちろんジャンルを意識はしていたんですが、次はミステリを書く、次はSFを書く、という感じで」

福田「自分は○○を書くんだ、というジャンルの縛りはなかったということですね」

太田「新しい出版社の人とお話しする時に、自分で手持ちのカードを切らなければなりませんよね。それをなるべくたくさん持っていたかった。編集さんと話していて、この人はホラーが好きだなと思ったらホラーのカードを差し出す感じ」

福田「まだお書きになっていなくて、これから書きたいと思われているジャンルはなんですか」

太田「長編のホラー。前から書きたかったのは、ホーンテッド・ファクトリー(呪われた工場)。それもバブルの時の、僕が知っていた死ぬほど忙しい工場で変異が起きるという話なんです。この異変が本当に超常現象なのか、それとも何日も徹夜して狂った頭が見せた幻影なのか」

福田「面白そうじゃないですか! 名古屋が舞台なんですね」

太田「でも、誰もまだこのネタを拾ってくれない」

福田「そう言えば、宇宙エレベーターものを書こうと思ってる、とも前に言われてましたよね。あれはハードSFになるのでしょうか」

太田「ちょうどそれ、昨日書き終わったところなんですけど、SFハードボイルドになりました。まだ原稿の手直しをしている段階で、いつ出るかなどは言えないんですけど(太田注・2015年2月刊行と決まりました)」

福田「おっ! 楽しみにしておりました」

太田「宇宙エレベーターの基地がモルディブにあるという設定です。日本の企業が軌道エレベーターを作って管理もやっているんです。モルディブで便利屋をやっている日本人が、消えた日本人女性を捜すというのが発端。それで、捜しているうちに宇宙エレベーターに乗って月まで行ってしまう。いただいた資料がとても役に立ちました」

福田「本当ですか! それは良かったです。私は資料を手に入れたタイミングの関係で、あまり活かせなかったので、どなたかに活かして欲しかったので」

太田「思ったより時間がかかってしまって。本当はもっと早く書けるはずだったけど、半年くらいかかってしまった」

福田「半年で一冊なら早いんじゃないでしょうか」

太田「いや、昔は年に書き下ろしで4冊くらい書いてたから。それに連載の仕事がふたつ入って、ショートショートも書かなきゃいけなくって」

福田「すごいじゃないですか。いまは年間何冊くらい出しておられるんですか」

太田「すごいバラバラなんですよ、年によって違う。今年は年間3冊しか出ない」

福田「3冊しか!(笑)そんなことを言うと、首を絞めに来そうな人たちのお顔が目に浮かぶんですけども」

太田「世の中には小路幸也さんとか柴田よしきさんとか、とんでもない量を書いているすごい人たちがたくさんいますから。小路さんなんか、常に長編のゲラが3本あるって言ってましたから。そういう人を見ちゃうと、自分は書けてないなあと思うんです」

福田「見習いたいです」

太田「この前は、黒田研二さんに文句言われちゃって。『太田さんはTwitterでしょっちゅう書けない、書けないっていうけど、そのセリフがどれだけ他の作家にプレッシャーを与えているかわかってるんですか』って。だって書けてないもん。本当なら今の倍くらい書きたい」

福田「太田さんは本当にお書きになっているほうだと思いますよ」

太田「自分の実感からはそうならないんですよ」

(第二回につづく)



$エンタメ探検隊!※松田優作ではありません。柴田哲孝さんですよ、皆さん!

福田「初めて柴田さんの本を読む人に、まずこれから読んでごらんってお薦めするとしたらどれですか?」

柴田「うーん、なんだろ? 極端なものが多いんだよね。『TENGU』なんかも、読みやすいという人もいるんだけども、結構グロいところもあるし。『下山事件 最後の証言』かな……。ただね、面白いのが、僕の本って一回読むとハマるらしい。読んだことないか、全部読んでるか、どっちかみたいなとこはある」

福田「私はまだ、柴田さんの本のいい読者ではないんですけど、今回いろいろ読ませていただいて思ったのが、文章が非常に読みやすいですよね。小説の世界にスーッと入っていけますね」

柴田「難しいこと書いてないんだよね(笑)」

福田「たとえば『THE WAR<異聞 太平洋戦記>』なんて、難しいことも書かれてると思うんですけど、この読みやすさというのは、やっぱり日本語が美しいんだろうなあと思って。スーッと読んでいるのに、しっかり残っていく感じが、すごいなあと思って」

柴田「確かに、文法的なことはすごく気を使ってて、最初はデッサンをしっかりして、その上で、あえて崩してる文章はわざと崩してるところがあるので……」

福田「わざと引っかかりを作って、考えてもらおうという意図ですか」

柴田「そう。ちょっとここに引っかけさせたいっていうとこあるじゃないですか。さーっと書いてって、ここだけ文法逆転させてやろう。そこで引っかかるから、えって思ってもう一回読むだろうっていう、それは敢えて使うよねっていう」

福田「ですね。呼吸というかね」

柴田「呼吸ね。小説の文章っていうのはリズムでしょ。音楽、交響曲みたいなものだから、常にリズムを考えながら書いているし、逆にリズムが全然あわない人もいるよね。読みやすくしようという気はないんだけども」

福田「『漂流者たち』を読んだ時に、特に感じたんですけど、声に出して読んだら美しいだろうなと思ったんですよ」

柴田「それね、言われたことある。僕の本は、朗読会とか目の見えない方のための朗読にも、よく使われるんだって。読みやすいんだって。あとひとつはね、福田さんの本なんか読んでてもそうなんだけど、難しい言葉使わないでしょ」

福田「それって実は、逆に難しくないですか」

柴田「難しいでしょう。難しい言葉使いたくなる時ってあるじゃない」

福田「格好つけたくなりますよね」

柴田「なるでしょ? それをあえて使わないの。それで、ホントにここだけ、一か所だけ使わせてっていうのあるけども、それも全部作家だからあるんだけども」

福田「私はまだちょっと、格好つけてる時がありますね」

柴田「でもね、福田さんの『サイバー・コマンドー』読んでも、ピシッとした端的な文章で、そういう小難しい言葉は全然使ってないから、小気味いいよね。あれをもし、辞書ひかなきゃわかんないような言葉使ってると、ん?って思う。それは違うと思う」

福田「逆に、時々思うんですけど、辞書を使わないとわかんないような言葉を、1冊にひとつかふたつぐらい入れた方がいいかなって思うこともあるんですよね。で、これって何だろうって思って、その言葉を覚えてくれれば、普通使わない言葉でも、その言葉が生き残るじゃないですか。そういうのもありかなと」

柴田「それでも、そこを際立たせるために、他は使うべきではないんでね」

福田「そうですね。話は変わりますが、一番好きなことを仕事にしないほうがいいという考え方があるじゃないですか。それについてはどう思われますか」

柴田「俺の一番好きなことって小説書くことではなくて、他にもいっぱいあって、釣りのほうが好きだとか。あと、何が得意かっつったら、小説書くよりも、ラリードライバーをやった時のが天職だと思ったもん、ってのがあるわけね」

福田「ラリードライバーには、なりたくてもなかなかなれませんからね」

柴田「ホントにうまかったからね、車の運転。今は動体視力とか、目も悪くて駄目だけど。当時は車を自由自在に操れたよね」

福田「車を自由自在に操る楽しさっていうのは、スピードの楽しさなんですか? それとも何か別の楽しさがあるんですか?」

柴田「サーキットでF1で走ってる時は、やっぱり300Km/hオーバーしてるわけでしょ。でも、ラリーでダートなんか走ってると、せいぜい100Km/hしか出てないんだよね。それでも、ダートで車が横滑りすると、恐怖心があるしスリルもあるし。スピード、イコール充実感ではない、とは思う。スピードは、条件のひとつにすぎない。僕が運転する車に乗ってるとね、眠くなるっていうの。バンバン飛ばしてるのに、横でぐうぐう寝てるやつがいる(笑)」

福田「ああ、安心して乗ってられるんですね。ドライバーによっては、助手席で寝られたら腹立つっていう人もいますけど」

柴田「全然思わない。みんな寝てるから(笑)」

福田「眠気を誘うリズムとか、あるのかもしれませんね」


$エンタメ探検隊! ご自宅の一角を大公開! 西部劇の香りが!

福田「それでは最後に、読者にひとこと頂戴してもいいでしょうか」

柴田「僕の書いた本ってね、さっきも言ったように、書き手も消耗してるけども、読み手にも消耗を要求するところはあるの。それは勘弁してください。そういうもんです。それもまた、完走した時に達成感があるでしょ、そう思って下さいと(笑) で、軽いものも含めて、いろんなものを書くので、読者によって合うものと合わないものがあるかもしれない。だから、いろいろ読んでみてほしい。もう結構文庫になってるのもあるんで。タイトルをぱっと見て、これは難敵だろうと思うらしいけど、そうじゃないんだよって。難しいものでも読みやすいし、意外とすらすらいっちゃって、もしかしたら僕の本を読む事によって今まで読んでた本から、一つステップアップできるかもしれないよって。今まで読めなかったジャンルのものが読めるようになるかもしれないよって、僕は思ってるね」

福田「今まで、自分に合わないんじゃないかと思って手を出さなかったジャンルを、どんどん読み始めるかもしれない。いいですね、それは」

柴田「読みやすいから。だからとにかく手にとって読んでみて。文庫になってる1冊でもいいから」

福田「ありがとうございました」

これにて、柴田哲孝さん編、完結! 柴田さん、本当にありがとうございました!


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福田「今回は、柴田さんの日常生活についてお伺いしようかなと。今日、ホントは船を出して夜釣りに行かれるはずだったんですよね。天候が悪くて、こちらにお越しいただいたわけですが」

柴田「釣りは、そういうことはよくあるからね」

福田「よく釣りをされるんですか?」

柴田「最近日本ではあんまりしなくなっちゃったけど……。今年の春にはフロリダ行って、エバーグレイズ国立公園で釣ってきたから。その時にアマゾンとかも行ったりとか」

福田「アマゾンですか~!」

$エンタメ探検隊! 見よ、この微笑みを!

$エンタメ探検隊! こんなのも、釣っちゃいます! おお!

柴田「マラッカ海峡に行ったりとかね。1年に1回くらいは、海外で何にもしないボケーっとした時間を持つと決めてるから。読みたい本と釣り竿持って、あとはパンツとハブラシ以外持って行かないっていう、そういう旅をしようって決めてる。自分一人でね。何年かずっと続けてる。最低、年に1回。期間は一週間くらいじゃない?」

福田「その間、連絡はシャットアウトっていう感じで」

柴田「そう。もうひとつ条件があるとしたら、ケータイが通じない所に行くみたいな(笑)」

福田「いいですね、それは(笑) 」

柴田「ザマーミロみたいな(笑)」

福田「だって基地局ないんだもん、みたいな(笑) 」

柴田「そのかわりすごいけどね、空港に帰ってきて、電波が入る所に着いたら、ピーピーピー!ってもう、アイフォン鳴りっぱなしになってる(笑)」

福田「一気に現実に引き戻されますね」

柴田「そうそう。メール80何本とか(笑)」

福田「読むだけでも大変でしょう(笑) お仕事される時はパソコンですか?」

柴田「手書き」

福田「手書きですか! ちなみに筆記具は?」

柴田「あのね、気分によって。例えば、小説の構想なんか書く時は割とシャーペンが多い。消しゴムで消せるから。だけど、エッセイ書く時はペリカンの万年筆を使う。これはもう、自分のスタイルとしてエッセイはこれでやりたい、というのがあるみたい。結局ね、福田さんもそうだけどさ、書くやつがさ、楽しんでるってことが大事だと思うわけ。私はこういうものを読みたいんだって思うものを書くでしょ? 俺、それでいいと思うんだよね。お金を稼ぐのに効率がいいっていうような書き方をしてると、そういう人間はいつか潰れてくと思うの」

福田「書いてて自分が楽しくないと、読んでる人にも伝わりますよね。私も、自分自身がわくわくするな、という状況が必要です」

柴田「それでいいと思う。僕なんか『THE WAR<異聞 太平洋戦記>』のために、資料を集めたり取材で人の話聞いたりして、どんどん新しい情報入ってくんのが面白くて面白くてしょうがなくて、そのまんまストレートに書いてるからね、今」

福田「やっぱり柴田さんて、とてもジャーナリスト的だと感じるんですけど。逆に、ノンフィクションではなく小説をお書きになるという理由はありますか?」

柴田「下山事件を書いた時に、一言たりとも嘘は書けないし、一行たりとも自分の想像・空想を入れてはいけないでしょ? それが辛いの。僕は99.9%ホントのことを書いても、あとの0.1%空想とか想像で書いたら、それはノンフィクションじゃないと思うのね」

福田「ちょっと話が飛びますが、柴田さんて、趣味が多彩でお料理も上手っていうイメージがあるんですけど。また、以前写真を見せていただいてびっくりしたんですが、カービングでバッファローの、すごい壁飾りを彫刻されてましたよね」

柴田「ああ、あれはバッファロースカルっていうんだよ」


$エンタメ探検隊! これが柴田さん作のバッファロースカル!

福田「ご自分で彫られたそうで、びっくりしたんですけど、本格的ですよね」

柴田「誰かに習ったわけじゃないんだ。僕はなんでも、習うってことをしたことがないんだ。なんでも自分でやるよ。小説だってそうでしょう? 例えば、家を建てようと思って、ログハウスを自分で作ったり」

福田「那須のおうちですか。ええー!」

柴田「誰かに習ったりしないの。とりあえず勉強しながら、自分で試行錯誤してやっちゃう。失敗してもいいじゃないって。失敗したら、次は成功するからって。そういう主義。すべてにおいてそういうやり方」

福田「参考までに、どのくらいの期間をかけてログハウスを建てられたんですか?」

柴田「しめて1年ぐらいかかってる。材木が届いた日から。でも、未だに完成してないところもあんのよ。1階に天井張ってないとか。ここ、棚作んなきゃとかってとこ、いっぱいあるんだけど。永久に完成しないおもちゃみたいなところはある。ログハウスって」

福田「そのほうが楽しそうですね」

柴田「そのうちどっか壊れて、それを直したりとか。改築したくなったりするの。家ってそういうもので、大工さんがバーッと作ってハイ完成っていうものではないような気がしてて、それと――僕なんか夫婦関係が破綻してるから偉そうに言えないんだけど、夫婦関係ってのも、そんなもんなんじゃないかなって。結婚したらそこで完成ってもんではないでしょ。一生かかって少しずつ変化したり作ったりとか、作り替えたりとかお互い築いてくもんでしょってね。それに失敗したこともあるんだろうけども、それでいいんじゃないのって。家も、ひとつだけのものだから同じだよねっていう……」


$エンタメ探検隊! 那須のご自宅、愛車とともに。

福田「未完というか、完成していない状態を楽しんでおられるっていう感じがいいですね」

柴田「小説なんかも、そういうものがあってもいいのかなと思うし」

福田「余韻がありますよね。あんまりきっちりと、終わっちゃったー! みたいな感じより、この後どうなるんだろうっていうのがちょっと残っているぐらいのほうが、私も好きですね」

次回、いよいよ最終回です! (つづく)


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$エンタメ探検隊!『THE WAR<異聞太平洋戦記>』(講談社)の話に入っていくのです。

柴田「これ気に入ったんでしょ?(笑)」

福田「気に入りましたよ(笑)」

柴田「好きだと思ったんだよ」

福田「ホントに面白かったです。全部で5話あるわけですけど、歴史の闇というか、公式にはそんなことがあったなんて言われてないですけど、『実はこうだった!』っていう、その『実は』の部分がとびきりのネタですよね。たとえば、東京大空襲の前に、実は大空襲があることは日本も知っていたのではないかとか……」

柴田「それも全部取材して、実際そう言う人がいて。導入部分なんか、全部実体験だからね。八十代の女性の証言として、当時存在した会社『インドネシヤ産業』について書いてあるけど、それは実在した『アジア産業』のことで、『下山事件』にも出てくる。名前もちゃんと書いちゃっていいよ」

福田「実名を出しても大丈夫ですか」

柴田「全然関係ない。『下山事件』の時に、名前出しちゃってるから。実話なんで。そういうとこから入っていって、調べていくわけで。変だなと思ったら、そこで済ましちゃうと終わっちゃうじゃない。何か変だと思うから突っ込んでいくっていう」


$エンタメ探検隊!

福田「どうやって、このネタを引っ張り出してこられたんですか」

柴田「最初は、『下山事件 最後の証言』という本の取材で、当時の右翼関係者、関東軍の秘密工作員、それから元中野学校出身の人間に会って話を聞くじゃないですか。彼らとは下山事件の事だけを話すわけじゃないから、『下山事件』では使わなかった余剰品みたいな部分を取り出したんだね。もうひとつ面白い話あんだよ、みたいなことを言われてね」

福田「どこまでが取材で掘り起こされた事実で、どのへんがフィクションとしてお化粧をされたところなのかをお聞きすると、無粋ですよね」

柴田「いいよ」(あっさり)

福田「いいんですか?(笑)」

柴田「全然構わない。『私』という一人称で、ジャーナリストが出てくるでしょ。あれは僕のこと。ほとんど事実。小説に登場する取材先も、実在の人間。四国にいる誰々とかも、会ってる人。ただし、名前は変えてる。頼むから名前出さないでくれと言われたらそれは出せないんで。フィクションとして、違う名前で出すならいいでしょって言ったら、わからないように書いてくれるならいいか、ってなるんで」

福田「じゃあ、ほぼノンフィクションですよね。取材先に迷惑をかけないように、登場人物を仮名にしたとかですね、配慮されたところがフィクションになってるってことですね」

柴田「そう考えていいよ。一部の読者さんが、そんなバカなことあるわけないって言うけども、そう思ってんならそれでいいよっていう。日本の戦後史とか戦中史っていうのは、ほとんど東京裁判の時にできてるの。あの時に、戦前から戦中にかけて日本はこういうことをやったから、日本に罪があるって歴史を作っちゃって、結局サンフランシスコ条約の時に、永久に覆さないという事を条文で入れちゃったでしょ。だから今でも、日本の周囲の国に対しても、ホントは違うんだけど、覆せないことがいっぱいあるわけですよ。だけど、僕は政府の人間じゃないんで、覆せるものは全部覆す(笑)」

福田「公式の歴史と本当の歴史が一緒とは限らないですよね」

柴田「事実と真実は違うっていう。事実を作ったのが東京裁判だったらそれでいいじゃないかって。僕は事実には興味がないから。僕は真実書いてるだけだからっていうのが、僕の立場で。だからこれは事実じゃないかもしれないけど、真実ですよっていう言い方をする。たとえば、『THE WAR<異聞太平洋戦記>』の中に、真珠湾攻撃の前に、ハワイのラジオで「目ン無い千鳥」が流れたというエピソード、あるでしょ。あれホントなんだよね。東京大空襲のことを、事前に日本が知ってたのもホントなんだよね。日本は飛行機あるのに出さなかったし、高射砲の弾、空砲こめてたのもホントなんだよね。だから、B29も機関銃を全部降ろして攻撃したんだよね」

福田「そのへんの説明が、論理的に書かれているんですよね。なぜB29は機関銃を持って行かなかったのかっていう出発点から調べていくと、結論が導かれるわけで」

柴田「僕は、たまたまアメリカ人のボーイングの設計士と繋がりができて、内容を検証してもらってるけど、その人はこの本の内容を日本人から読んで聞かされて、「Oh my God」つったって(笑) それしか言いようがなかったって(笑) もしかしたら僕は、完全に架空のものって書けないのかもしれない。フィクションの作家としておかしいんだけども」

福田「面白ければ全然OKじゃないですか?」

全然OK!! というところで、まだまだ続きます。(つづく)

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$エンタメ探検隊!-漂流者たち『漂流者たち』(祥伝社)について。まだまだ続きます!

柴田「ある意味ね、僕の書いたものっていうのは、書き手も辛い分だけ読み手にも辛さを強いてしまうところがあるので、それが欠点だから」

福田「しかしそれがカタルシスにつながるわけですよね。現代社会って、昔に比べると、辛いという感情を味わうことが少ない社会なんじゃないですかね」

柴田「そう。それはいいことだね」

福田「東日本で実際に震災を体験された方は、辛いなんて言葉じゃ言い表せないと思いますけど……」

柴田「ないと思うね」

福田「やっぱり、そういう体験をしてないと、本当に辛いっていう状況っていうのはなかなかわからなかったりする時代なのかな……と思ったんです」

柴田「そうねー…。僕なんかその、震災直後の2週間目ぐらいから現地に行っていて、1年間に10回ぐらい行ってるのね。暇があるたんびに。車に、食料とか自分の本とか積んで、ごっそり持って行くわけ。どこでもいいから被災地行って、本とか欲しがるから、みんなあげるの。そうすると、おじちゃんなんかが、なんでこれ同じやつの本ばっかりあるんだよって、もっと面白いのないのかよとかって言うわけ。いやすみません、柴田なんとかってやつのばっかりじゃねぇかって言われて(笑) まあいいや、じゃ2冊ほどこれもらって行くわって、ありがとうございますって(笑)」

福田「それは名乗って行かれるわけではなく?」

柴田「名乗ってないよ(笑) 今だから言えるけど、向こうじゃ誰が来ましたみたいな情報ね、流さないんだよ。僕はホントに、夏なんかTシャツにタオルほっかむりして、後ろにカップラーメンと自分の余った本を山積みにして、ダーッと行って、なんか欲しいのあったら持って行ってくださいって」

福田「その機動力はもう、パリダカのチームを組織した時と全然変わらないわけですね」

柴田「そうそう。いまだにみんな不思議なんじゃない。なんで柴田哲孝って人の本しか持ってないんだろうって思ってんだ(笑)」

福田「語り草になってるかもしれません(笑) 」

柴田「どっかの倉庫から盗んで来たと思ってるかもしんないよ(笑) 今だから笑って言えるんだ。当時は笑って言えないからね。行ったところでもって、某タレントさんとバッティングしたことがあって。タレントさんのいいところっていうのは、テレビに出ている有名な人が来たっていうだけで、喜んでくれる。やっぱり悪くないよ、全然。ちゃんとメリットがあるんだ。僕らには、そういう力はないから」

福田「柴田さんの読者は大喜びでしょうけれどね」

柴田「うん。たまたまね、知ってるファンの人とかいたら、大喜びしてくれるかもしんないけど。実は一人わかった人がいて。なんでわかっちゃったかっていうと、文庫本持って行ったから」

福田「写真が載ってる(笑)」

柴田「写真と実物を見比べて、『……本人ですよね?』って言うから、『しーっ』ってね。サインくださいとか言われて、サインして。自分にとってもいい経験であったから、この本の中に活かされてるわけで」

福田「『漂流者たち』の中で、神山健介探偵が現地で遭遇する人達がいいですよね。逞しいというか、自分もホントに辛い状況なのに、他人に少しでも何かを分けたいっていうのが、ああ、いいなっていう……」

柴田「あれ、自分がホントに会った人だからね。こっちが何かしてあげたいと思っても、行って話聞いてると、お前もメシ食ってけとか言うし」

福田「人間て、してもらうだけじゃなくて、何かしたいっていうところがあるんですね」

柴田「それでね、面白い事に気がついたんだけど、ああいう時ってしてあげるだけじゃなくて、向こうもしてくれるっつったら、素直に受けた方がいいのね。他人に何かしてあげたってことが、彼らにとっては自分の次へのステップ、自信になるから。だからおにぎり1個でも、あげるって言われたら、ありがとうってもらったほうがいいのよ。なんかそんな気がした」

福田「分かる気がします」

柴田「実は阪神大震災ん時も、いたのあの辺に」

福田「そうなんですか?」

柴田「ボランティアで、六甲山とか崩れてる道があって、岩岡側から飲み物とかカップラーメンとか、自衛隊も通れない道があるっていうんで、それを僕らジープの仲間で、東京でクラブの連中が相談して、俺らなら行けるっていう道探したの。その時の経験が、『GEQ』って小説に結実してて、いろんなやつから話聞くし、あの地震おかしいんだよって。ありえねえんだよって話を聞くわけで」

福田「じゃあ、柴田さんの作品には、かなり実体験が盛り込まれているんですね?」

柴田「実体験がなけりゃ書けないでしょ?っていう、僕はね。だから、なんでもそう……パリダカでもアマゾンの釣りでも、こういうことに関しても、全部とにかく飛び込んでいっちゃうやつなんで、僕は。それがね、もしかしたらね、リアリティなのかなと思う。僕の本にリアリティがあるという……」

福田「まさにそうだと思います」

柴田「で、『THE WAR<異聞太平洋戦記>』がそうだけど、当時の右翼の人とか、関東軍の生き残りとかに、話を聞きに行くじゃないですか」

福田「はいはいはいはい」(※すみませんが、私はここで本当に身を乗り出しました(笑))

柴田「そういうところから始まってるから。僕は、その当時(太平洋戦争当時)は生きてないけどね」

福田「それでは、『THE WAR<異聞太平洋戦記>』に話をうつしていきましょうか」

まだまだ、続きますよ!! (つづく)


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