太田忠司さんインタビュー 第六回 これから小説を書こうとしている皆さんへ | エンタメ探検隊!

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太田「萩尾望都さんに会ったんですよね。会ったというか、一緒に仕事もしたんです。SF大賞の選考委員」

福田「うらやましい~。どうでしたか」

太田「目の前に神様がいる! 徳間書店の編集者さんに紹介された時には震えてたし。まさかその後、一緒に仕事をすることになるとは思わなくて。選考委員をした後、懇親会で萩尾望都さんが僕に中華料理を取り分けてくれたんですよ。うわーって」

福田「これ食べていいのかなって思いますね」

太田「帰って嫁さんに話したらひとこと、『無礼者』って」

福田(爆笑)

太田「すごく優しくて気さくで可愛い方で」

福田「昔から大好きでよく読んだ作家さんたちには、なるべく近づかないで壁のほうからじっと見つめているのが一番幸せだなと思ってしまうのですが。愛情が強すぎて(笑)」

太田「ある程度の年齢になるとね、自分自身がそう言われるようになってくるんですよ」

福田「太田さんはそうでしょうねえ」

太田「福田さんだってそうなりますよ。中学生の頃に僕の本を読んでいた編集者さんが、いま大人になって、僕の本を作ろうと言ってくれるんです。東京創元社のFさんは、中学生の頃に狩野俊介シリーズを読んでいて、それで創元に狩野俊介を持ってきてくれたんです。やっぱり若い人向けに本を書いておくものだなあと」

             *

(しめにマグロ茶漬けを食べながら)

太田「マグロ茶漬けって子どもの頃、よく食べてたんです。父親がよく作っていて、マグロの刺身をご飯に載せて、出汁をかけて食べるんです。ちょっと懐かしかった」

福田「今日はいろいろ無礼なことを伺ってばかりなんですけど、お子さんはいらっしゃいますか」

太田「子どもはいないです。子どもはやっぱり無理だっただろうなと自分で思っていて。いい父親になる自信がまったくないです。自分の父親がそういう父親だったので。父親のロールモデルがわからない」

福田「いいお父さんになられたと思いますけどね。今日いろいろお話を伺っているうちに、だんだん太田さんご本人が『グレアムのその後』みたいな気がしてきて。お話しながら、グレアム良かったね、と思っていたんですけど。すごく妙なことばかり言ってすみません。太田さんって大ベテランなんですけど、これからまだまだ新しい皮がめくれていきそうな気がするんですけど」

太田「行き詰ってますよ」

福田「行き詰ったところで、また新しい皮がペロッとめくれそうな感じなんですよ」

太田「行き詰ると言えば、二作目からもう行き詰ってましたけどね。二作目を書いて、これが本にならなかったら自分はもう本を出せないと思ってた。ところが本が出て、そしてまた次を書いて――それがずっと続いている」

福田「それが139冊も続いたんですか」

太田「なんか、乾いたぞうきんを無理やり絞っているような。乾いたぞうきんでも絞れば出るんです

福田「それは、これから小説を書きたいけど何を書いたらいいんだろうと考えている人たちに、希望の言葉になるんじゃないでしょうか」

太田「逆に絶望の言葉になるかも。書きたいけど何を書いたらいいのかわからない人は、書けないと思う。この前、岐阜で小説講座を開いている作家の鈴木輝一郎さんと話しているうちに、小説を書きたいと思っている人のうち九割は書かないよね、という話になりました。書かないのに小説家になろうとする」

福田「読まずに書けると思ってる人も多いですね」

太田「小説を読むと、自分の中の大事なものが壊れるから読まないと思っている人たちが多いみたいですね。輝一郎さんから聞いてすごいなと思ったのは、何が大変かというと講座の生徒さんを落選させるのが大変だと。落選するということは、とりあえず書いて応募したということなんです。落選するところまでもっていくのが大変。まず小説が書けてあたりまえ。その後で、その小説が評価されるかどうかの問題」

福田「書かないことには始まらないですもんね」

太田「10枚のものであっても1000枚のものであっても、とにかく最後まで書くと」

福田「頑張らないと。139冊は、私は何年後に行きつくかなあ、一生かけて書けるかしら」

太田「何年かに一冊だけ書く人でも、記憶に残る人もいるんですよね。そういう人はそれでいいわけで、みんながみんな、たくさん書かなきゃいけないわけじゃないんです。10年に一冊でも読者が待ってくれるならかまわないんです。そうでない人は頑張って、忘れられないようにしなきゃいけない」

福田「耳に痛い言葉ですが、その通りだと思います」

太田「続けて書くためには、95点ぐらいの作品をコンスタントに書き続けるんです。無理して95点の作品を98点にするために何年もかかる、ということをすると、自分は満足できるかもしれませんが、結局その差は3点なんです。それくらいなら、95点でコンスタントに出し続けたほうがいい」

福田「やっぱり、職人的な考え方ですね」

太田「素人でありがちなのは、100点をめざしてしまうことです。そして書けないまま終わってしまう

福田「それは、今から小説を書こうと思っている人たちに、とても参考になる言葉ですね」

太田「あなたの95点が商品になるかどうかということなんです」

福田「逆に言えば、95点で商品になるレベルに持って行かないといけないんですよね」

太田「そうなんです」

福田「長続きの秘訣はなんですか」

太田「やっぱり、誠実さです」

福田「締め切りを守るとか」

太田「締め切りを守るというのは、逆に言うと、締め切りを守れない仕事は引き受けないことなんです。往々にしてあるのは、いっぱい仕事を受けてしまって、にっちもさっちもいかなくなってしまう。それは誰にとっても不幸なんです。だったら、自分のできる範囲内で仕事を引き受ける」

福田「ほんとにマネジメントの世界になっていきますね」

太田「そのためには、自分にちょっとだけ負荷をかける。ちょっときついな、というレベルで止めておく」

福田「100%ではなく、100ちょっとをめざす理由は何ですか」

太田「限界をちょっと超えることで、自分が成長できるから」

福田「今日はいろいろお話を伺っていて、私が考えていることと同じだ!と思うことが多かったです。自分のフルパワーよりも少し上をめざしておくと、成長できると考えていたんですが、ああ、やっぱりといま心強く思いました」

太田「書く側はちょっとずつ成長しないと、読む側は作品のレベルが下がったと思ってしまうんです。少しずつ新しいことをしなきゃいけないし、レベルも上げていかなきゃいけない。でないと、読む側は落ちたと思う」

福田「本当にそうですね。太田さん、今日は本当にありがとうございました!」

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<編集を終えて>
「太田さんの写真が欲しいんですー、ももクログッズを前にした太田さんとか、何かいいお写真はありませんか?」という私(福田)の無茶ぶりに、太田さんが「はい!」と送ってくださったのが、ももクログッズの写真と、ジョン・シナのTシャツを着た太田さんの写真の二枚でした。
このサービス精神が、太田さんの作家生活の根幹に違いない! とあらためて感じました。

今回も、お楽しみいただけましたでしょうか?
更新遅いですが、見捨てないでくださいね~!(笑)

最後にちょっとだけ自分の本の宣伝w
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