それはいつしかのバレンタインデー前日での出来事だった。


俺『ただいまぁ~』


・・・シーン。


俺『あれ、誰もいないのかな?』



仕事を終えて帰宅したわけだが、どうやら誰もいないようだ。


荷物を置きリビングに行くと、テーブル上に翌日のバレンタインデーのモノと思われる手作りのチョコが置いてあった。


綺麗にラッピングされているもの、乾かしているもの、明らかに失敗して変形しているものの、3パターンに分類されて置かれていた。


夜遅くまでで、何も食べていなかった俺は、この失敗したと思われるチョコなら1個くらいいいよね♪



と自分の心の中に言い聞かせ、チョコを手に持ち口に運んだ瞬間その音は突然鳴り響いた。






『・・・ガチャ。』



俺『えっ!?』








(・・ガチャ。。。っだとっ!?)






廊下は一直線。
リビングのテーブルは廊下からも大変見晴らしが良く、あったかホーム仕様なわけだが。



恐る恐る振り替えると、あったかホームとは程遠い怒りに満ちた妹が部屋から出現した。。



俺『(・・・いたのか。。)』



・・・レベル1でボス戦に挑むような圧倒的な力差を感じながら妹の攻撃。



妹『今、食べてたよね?』



俺『ん?食へてなひよっ!!』



慌てて食べたのでキチンと喋られず、苦し過ぎる俺の反撃。



妹『食べてんじゃねーかよ!』



俺『すびばぜん。』




呆気なく瀕死に追いやられたわけだが、最後の力を振り絞って反撃してみた!




俺『し、失敗しているヤツだから良いじゃん!!』




何とか切り抜けられると思った最善の一手だったわけだが、帰ってきた反応は予想を上回るものだった。








妹『はっ!?失敗してねーから!!』






・・・。








(・・え。。失敗してないだって!?)




予想だにしない反撃に俺の頭の中は混乱して、すぐ理解することが出来ないでいた。


どうやらテーブルに置いてあったチョコはすべて成功で、失敗のモノはひとつも無かったらしい。





俺『(そんなバカなっ、これはどう見ても・・・)』





ここで声を押し殺しても無駄であった。
チョコを食べられてただですら怒っている上に失敗呼ばわりしてしまったのだから。


俺はおのずと最後の行動へ。




俺『わかったよ。食べてしまった1個分のお金払うよ!材料いくらだったの?1000円くらい?』




妹『うーんとね、5000円でいいよ。』


  



マスオさんになれた気がした。



妹が言うには、手作りチョコは愛が込もっているから値が張るらしい。



チョコ1個=5000円。


GODIVAでもそんなにしないのに。と後々思ったが、既に混乱していた俺は、もはやすんなり納得し受け入れていた。


恐らくこの時、壺を買えと言われたらすんなり買ってしまう状態だっただろう。



それ以来、妹のモノは迂闊に食べないと誓ったのであった。




あれから幾年が過ぎたであろうか。



今年のバレンタインも過ぎ、平和にコタツでアニメを観ながらぬくぬくしていたわけだが、そこへ妹がやってきて話し掛けてきた。



妹『配った義理チョコが余ったからあげるよ。』



俺『えっ・・・しかも食べ掛けじゃん。』





胸騒ぎを感じずにいられない。





ど、どうするよ、俺。笑


END