<<第四話・生霊に気付かず不倫に走る・>>
今日は日曜日、彼女とカラオケ喫茶の約束が有った。
哲也は睡眠薬も麻薬と同じで、とうとう幻覚を見る様に
成ってしまったかと昨夜の自分を思っていた。
約束の彼女とは、O市「潮祭り」で既に一夜を共にした仲だった。
哲也は教室の皆で行っていると説明しているが、妻の桂子
には事態はバレバレだった。
仮面夫婦には互いに詮索無しが平穏な日々となるからだ。
昼カラのお店はどこも11時開店、軽食(カレー、スパゲッティ、
うどん,そば、おにぎり、寿司等々さまざま)ドリンクはコヒー、
茶は飲み放題のお店が大半、カラオケは歌い放題、閉店は5時と
いうのがA市では定番になっている。
彼女の名は姫野美津子と呼ばれA市でも地元歌手仲間でも抜きんでていた。カラオケボックスやお店のカラオケには彼女の歌が数曲入って東京とA市で売れてる。
と云うのは演歌のトップ歌手である胡月さやかが、姫野さんを見出し一時東京に連れて行き胡月さんの前座をやって居た時期が数年有った。
北海道に来るときは今でも胡月さやかは姫野が前座をするのが条件とか、居なければ北海道公演は無しと徹底している。
姫野さんはその期間約半月は全道を同行して回る訳だから年一回と言え大変なイベントに成っている。
さる冬まつりには、出演交渉に市長がわざわざ何度も出向き、
市長の不倫の噂が有った事もあり有「お騒がせ芸能人?」の一人
には違いない。
「ひた向きに歌って人の心を打つところが好き」と大して上手くも無い哲也の歌に
何故か引かれ、哲也は高根の花と諦めていたが、抱きたい欲望も以前から有って
二人が結ばれるには時間は掛からなかった。
哲也にしたら「死」は迫っている、出来れば早く楽しみたいのだ。
食事をして何曲かを唄って店を出たら、既に外は秋風が吹いていた。
「何時までも哲也とこうして居たい。」と助手席から哲也の膝に
顔を埋めてきた。
「今日は僕の好きなとこにしますよ?」返事の替りに股間を弄り
出している。
郊外に洒落たモーテル「ブルーハウス」が有るので取り合えず
行く事にした。彼女がこんな大胆な事をするなんて想像もしていなかったし、A市では姫野の姫を取って「お姫」と呼ばれて、カラオケ業界では頂点に君臨しているお姫様だ。
ホテルについた時にはもう「お姫」は、目は虚ろに、哲也も息子は
寝た子が起こされたように元気を取り戻されている。
哲也はこんな機会があと何回続くのかと思たが、冷めた思い出で
頂点に逝くのも良いもので、「海の景色」「防波堤」「車の疾走」と
自分の最期の死にざまをイメージしていた。 (つづく)