癌であるという事実が、他人事のような感覚から徐々に現実のものとして認識されていく中、病院から職場へ向かって車を走らせた。

 午後からは、業務を委託している会社の担当者と打合せをすることになっていた。意外と冷静に打合せをする中で、病院での午前中の出来事が頭から離れていった。打合せが終わったのは午後5時頃。自席に戻った後、意を決して周りの職員に伝えることにした。まだ、詳細が分かっていないこともあり、伝える範囲は、所属長や直属の上司、同じ係の同僚のみに留めた。

 別室で個別に伝えると皆一様に驚いた様子ではあったが、進行がまだ初期であることを告げると安心した表情に変わった。しかし、月末に控えていた遠方への出張は取りやめとなり代理の職員が参加することになった。準備にも時間をかけて楽しみにしていただけに少し残念ではあったが仕方ない。それよりも早速配慮してもらえたことに感謝の気持ちでいっぱいだった。
 帰宅後、家族にもそれぞれ伝えることにした。妻にはLINEで伝えていたこともあり、結果よりも来週末に行う精密検査についての話が中心だった。心配性な妻の反応が不安だったが、意外とあっさりと事実を受け止めてくれて少し安心した。部活から帰宅した息子にも伝えると、今後を心配する不安な表情を浮かべたが、初期であることを伝えると安堵したようだった。娘はバイトで少し遅い時間に帰宅したが、同じように説明すると予想外にも軽い感じで「ドンマイ」という言葉が返ってきた。深刻な雰囲気にならないように気を使った娘の優しさなのだろう。
 なるべく周りに迷惑をかけないように心がけて生きてきたが、今後は頼らざるを得ないことが多々あるだろう。これまでも一人で生きてきたわけではない。これからは少し周りに甘えてみてもいいのかもしれない。皆のおかげで自分があるのだなと実感した1日となった。「癌になるということ」は、こういう気持ちで生きていくことでもあるのかもしれない。