【SADV69サークルペーパー】国際成人力調査をどう読むか | 後藤和智事務所OffLine サークルブログ(旧)

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「SUPER ADVENTURES 69」(2013年10月27日、ビッグパレットふくしま)で配布したサークルペーパーです。

さ て今回のFree Talkですが、先日発表された、OECD国際成人力調査(PIAAC)の結果について、若者論研究の視点から(?)いくつか解説を加えてみたいと思いま す。PIAACについては、先日発行された、国立教育政策研究所『成人スキルの国際比較――OECD国際成人力調査(PIAAC)報告書』(明石書店、 2013年)という報告書がありますので、こちらを見ていくことにします。

「成人力」と言うと20歳以上を対象にしているように聞こえる かもしれませんが、実際には16歳~65歳が調査対象となっています。同じOECDが行っているPISAは15歳時の学力(PISAの規定する学力は我が 国の一般的な学力調査で考えられているものとはだいぶ違うので注意が必要ですが)を測るので、PIAACの被験者にはPISAを受けた年代の人も含まれま す。日本では5,278票が回収され、また言語や移民などの社会的背景を考慮したオーバーサンプリングは行われていません。

PIAACは 「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の3科目で行われ、原則としてコンピュータで行われます(ただしコンピュータが苦手である被験者 に対してはペーパーテストで受けることもできる)。対象国は下記に掲げる24国・地域で、調査時期は日本は2011年8月から2012年2月にかけて行わ れています。

対象国・地域
国:オーストラリア、オーストリア、カナダ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、日本、韓国、オランダ、ノルウェー、ポーランド、スロバキア、スペイン、スウェーデン、アメリカ
地域:ベルギー・フランドル地域、イギリス・イングランド及び北アイルランド
OECD非加盟国:キプロス、ロシア

順 位は全体と16~24歳に限定したものが掲載されています。それぞれの順位を見て見ましょう。まず全体では、「読解力」が296点で1位(他に有意差がな い国はなし)、「数的思考力」が288点で1位(他に有意差がない国はなし)でした。「ITを用いた問題解決能力」は総合的な順位は出されていないのです が、習熟度レベルをランク分けしたときに、高い水準であるレベル2・3の割合は日本は35%で10番目(高い順番からスウェーデン、フィンランド、オラン ダ、ノルウェー、デンマーク、オーストリア、カナダ、ドイツ、ベルギー)であり、他方でコンピュータで受検した被験者の平均点は日本が294点で最も高く なっています。

次に16~24歳ですが、順位が算出されている「読解力」「数的思考力」では、それぞれ1位(299点。2位のフィンラン ドと有意差なし)と3位(283点。1位~10位のオランダ、フィンランド、ベルギー、韓国、オーストリア、エストニア、スウェーデン、チェコ、スロバキ アと有意差なし)になっており、全体及び若い世代の両方でトップクラスの成績となっています。まあ、案の定「若い世代に課題」とか言う「分析」も多いんで すけど、若い世代が低く、20代後半~30代くらいが最もピークになるという傾向は我が国のみならずOECD平均でも見られますので、安直に若い世代が上 の世代と比べて劣っている、という表現は慎んだ方がいいかと思います。

少し前に、大学生の学力低下が話題になっていたときに、ある学者は チートを使ってまで我が国の大学生の学力が低いと言うことを躍起になって「立証」していましたが、政策志向で設計され、PIAACという国際的にもある程 度の説明責任が求められる調査においてこのような結果が出たことに対してどのような態度を見せるのか、是非とも見てみたいものです(なおこの「学力調査」 については、『現代学力調査概論――平成日本若者論史3』を参照されたい)。

閑話休題、続いてPISAとPIAACの結果の比較を見てみましょう。PISAとPIAACを比較する際に、それぞれのPISAに対応するPIAAC受検時の年齢は次の通りになります。

PISA2000:26~28歳
PISA2003:23~25歳
PISA2006:20~22歳
PISA2009:17~19歳

分 析が行われているのは「読解力」「数的思考力(PISAでは数学的リテラシー)」ですが、読解力では、興味深いことに、全てのPISAとの比較で、 PIAACでの順位を挙げているのです(対PISA2000:6位→1位、対PISA2003:9位→2位、対PISA2006:11位→2位、対 PISA2009:4位→1位。ただしPISAの順位はPIAAC参加国のみ)。またフィンランドは各PISAとPIAACの両方で高い順位を出している 一方で、カナダはPISAは高いのですがPIAACは低いという結果となっているなど、PISAの順位が高い国でも一筋縄では行かないと言うことがわかる と思います。数的思考力(数学的リテラシー)では、読解力でのフィンランドと似たような傾向で、双方で高い順位というものになっています(対 PISA2000:1位→2位、対PISA2003:4位→3位、対PISA2006:5位→2位、対PISA2009:3位→4位)。

ま た我が国の特徴として挙げられているのは、成人教育・訓練の参加率(42%程度。OECD平均は52%程度、フィンランドは65%程度)に比べて成績が遥 かに高いことです。ここから、我が国の成人は、学校教育修了時点でOECDの視点から見て、社会参加に必要な最低限の学力を兼ね備えていると言うこともで きると思います。

以上から考えると、少なくともOECDの考える(成人)教育の役割から考えれば、我が国の中等教育以上の教育は、成人時 の教育訓練をそれほど受けなくとも社会三角のための最低限の知識が得られるようになっているという側面から見れば、それなりに成功を収めていると言うこと はできると思います。もちろんOECDやこの報告書の書き手である国立教育政策研究所にしてもこれら以外の分析結果を発表してはいるのですが、少なくとも 我が国の高校生(義務教育修了者)以上の、社会に必要な学力については現時点である程度保障されていると考えるべきではないでしょうか。安直な教育叩き、 若年層叩きの前に、これは確認しておきたいと思うのです。


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