PCOSが妊娠しずらい理由は排卵障害だけではない 2021年9月 HR | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は無排卵が最も大きな不妊の原因です。治療法は排卵させれば良いはずですし、理論的には排卵誘発剤で排卵をさせれば妊娠してくるはずなのですが、排卵誘発剤を使用しても妊娠せず最終的に体外受精にステップアップする方が多くいます。この理論との不一致はどうして起きるのかこの論文では説明しています。

 

難治性となる理由として、排卵する力の欠如だけでなく、卵子の質、受精率の低下、胚の分割の停止、着床率の低下、妊娠後(初期及び後期)の合併症の増加などを説明しています。下の図がわかりやすいです。

 

 

以下論文を要約します。

 

PCOSの場合、妊娠中の合併症の増加が問題となります。具体的には妊娠高血圧症、妊娠糖尿病、子癇発作、早産、新生児のNICUへの入院など多数の点でリスクが増加します。これらの原因は胎盤形成などにおいて様々な要因が挙げられています。

 

またPCOSの場合、卵子の質の低下が挙げられています。またタイムラプスで見ていると胚の発育の明らかな遅延も認められています。そして胚の異数性の確率も有意に高くなります。

 

そしてPCOSの場合、子宮内膜の質の低下を示してきます。DNA修復、アポトーシス、ミトコンドリア代謝に関与するタンパク質の異常発現が指摘されています。

子宮内膜の質が低下する理由として黄体ホルモンへの抵抗性や感受性の低下、そして様々な正常の方との変化が示されています。また免疫の面、炎症が増加する面でも相違が指摘されています。これらの理由としてインスリン抵抗性(糖代謝の異常)、アンドロゲン過剰が大きな原因です。

 

この論文から言えることとして

PCOSの方に理解して欲しいこととして原因は単なる排卵障害ではないということです。延々とクロミッドを用いて治療をしていても結果につながらないことが多くあります。

排卵障害、卵子の質の低下、胚の分割の停止、着床能の低下、妊娠中の様々な合併症の増加、出産時のリスクの上昇があります。これらを理解し戦略的に治療に臨む必要があります。そして医師はこれらの事を説明することが求められます。

 

ただ現在のところもPCOSに関してはわからないことが多く、遺伝、肥満、糖代謝異常、ホルモン分泌異常などに関して毎月多くの論文が出ていますが、論文の最後は今後の大規模な検討が必要と締め括られています。

 

Human Reproduction, Vol.36, No.9, pp. 2421–2428, 2021

Is fertility reduced in ovulatory women with polycystic ovary syndrome? An opinion paper