このようなご質問がありましたのでお答えします。
痛いけど結果を出すためには耐えなさいと言うスタンスは一昔前の事であり、採卵に対して痛みを減らす事は医師として当然すべき事であり、辛い治療の中において、色々と工夫して少しでも痛く無いようにする事はとても大切な事であると思います。
採卵において痛いと感じる箇所は大体決まっており、痛い部位を極力避けたり、痛い箇所に局所麻酔を十分に効かせる事で、痛みを少しでも和らげる事ができます。
以下に具体的な工夫を説明します。
①刺す回数を減らす:
膣壁から針をさしますが、腹膜を通過する瞬間が一番痛い箇所です。つまりなるべく刺す回数を減らす事で痛みを減らす事ができます。
具体的に説明すると、例えば右側に5個、左側に5個の卵胞がある場合、それぞれに対して5回刺すわけではなく、一度刺して5個の卵胞を全て取れれば一番痛みが少なく好ましい採卵と言えます。つまり左右1回ずつ刺して10個全てとるようにします。
最初の卵胞を刺し終わった後、そのまま針を抜かないで次の卵胞に移ります。これを繰り返しながら5個全て刺します。
最初刺す前にどのルートで刺せば一度で全て取れるかを予測します。予測通り刺せれば完璧です。
ただ、実際に刺している間に一度抜いて刺し直したほうが痛みが少ないケースもあります。また次の卵胞が遠い場合にも刺し直したほうが良くなります。そのため必ずしも1回で刺すとは限りません。
いずれにしても5個の卵胞をとるときに5回刺す事は痛みを減らすためには避けなければいけません。
②刺す距離を短くする:
一般的に針が深く入れば入るほど痛みが強くなります。また同時に出血のリスクが高まります。そのためなるべく針は深くまで入れない事がポイントです。
奥のほうの深い卵胞を刺すときは、お腹を押して卵胞の位置を手前に動かし刺しやすくする事は大切な事です。
またエコーを適切に動かす事で卵巣の位置を動かしながらより近い位置で採卵する事も可能です。針を深く入れる事は痛いだけでメリットはありません。
③局所麻酔を効果的に効かせる:
ただ漫然と局所麻酔を打つだけではダメで、卵胞の位置を踏まえ針が通過する場所を狙いそこに局所麻酔を十分に注射します。局所麻酔は採卵中はもちろん痛みが軽減しますが、採卵後も痛みが和らぎます。
採卵後も普通に仕事が出来る事を目指します。
④ボルタレン座薬を用いる:
朝来院したらすぐ肛門にボルタレン座薬を入れます。これにより痛みの閾値が低下するため採卵中の痛みが軽減し、採卵後も痛みが和らぎます。
またボルタレンは排卵抑制効果もあり採卵までの間に排卵する事も防ぐ事ができます。
これらの工夫を駆使して出来るだけ痛くない採卵を目指す事が医師のすべき事であると思います。