(ある常務が出てくる)立ち居振る舞いがさわやかでしかもぬくもりがある人。自分から強引に打って出ることは一切しない。流れに決して抗わない人である。容量が良すぎるという人もいる。流れの変化を察知してもあえて自ら火中の栗を拾わない狡さのようなものがある。
流れに抗らず、自分が何もしないことに耐えていくことも一つの才能である。何かをすることよりも、何もしないことの方がはるかに困難であり、つらい事でもある。何もしないことに一生懸命耐え、出たとこ勝負の毎日に徹していくには驚くべき精神のスタミナが要求されるはずである。
…そうか、自分が何もしないことに耐えていくのも大変なのだ。確かにそうだろう。何かをすることよりも、何もしないことの方がはるかに困難なのだ。何もしないことに一生懸命耐える。今の俺も何もしないことに一生懸命耐えている。暇になるのだが、そんな暇な自分に耐えることもとても大切な事なのだ。

冬の火花 ある管理職の左遷録 江坂彰著 文芸春秋社[1983]