KÖRPERWELTEN博物館 (英語でBODY WORLDS、ボディワールド) はベルリン中心部のアレクサンダー広場にあります。世界各国を移動しながら展示されていた人体標本200点余りが常設展示されています。1996年より、断続的に、日本国内でも「人体の不思議展」として開催されていました。しかし、2012年を最後に、倫理上の理由から、日本では、開催されていません。


もともとは、KÖRPERWELTEN博物館の標本はハイデルベルク大学の物でしたが、現在の展示物は、全て中国で作製された標本に置き換わっています。同博物館は、ギュンター・フォン・ハーゲンス博士とアンジェリーナ・ワリー博士によって設立されました。2015年2月の開館以来、多くの注目と議論を集め、ベルリンの有名な私立博物館となりました。


KÖRPERWELTEN博物館の大人入場料は17ユーロです。現在、ハーゲンス博士の伝記と入場チケットが一緒になったクリスマスチケットを販売中。開館時間は火曜日から日曜日の午前10時から午後7時までです。住所はPanoramastraße 1A, 10178 Berlin。KÖRPERWELTEN博物館のホームページより。



プラスティネーションにて作製された象の標本。高さ3.5m、重さは3.2トン。



人体標本の保存方法であるプラスティネーションは、1977年にハイデルベルク大学に在籍していたハーゲンス博士によって発明されました。プラスティネーションとは、体液や脂肪をプラスチック溶液に置き換える革新的な技術で、プロセスは5つの段階から成り、数ヶ月を要します。この方法で作られた標本は腐敗せず、無臭で無期限に保存可能です。


ハーゲンズは、医師で解剖学者であり、医学と科学の分野で革新的な貢献をしたことで知られています。彼は、1945年にポーランドで生まれました。1965年に当時東ドイツにあったイェーナ大学で医学を学び始めました。その後、国境を越えようとして失敗し、東ドイツで政治犯として2年間拘留され、1970年に西ドイツへ亡命を果たしました。


ハーゲンズは1973年にハイデルベルク大学で博士号を取得、1977年にプラスティネーションを発明しました。1982年にはハイデルベルク大学の解剖学および病理学の研究所で講師に就任、1993年にはハイデルベルクにプラスティネーション研究所を設立しました。2004年までの22年間を、ハイデルベルクで過ごしました。更に、同地にBIODUR® Products社も設立しています。同社では、臓器標本を作製するための、溶液や機器を販売し、更に、年に1回のワークショップも開催しています。


1996年12月、ハーゲンス氏は大連医科大学解剖学教室の隋鴻錦 (スイ・ホンジン) 氏と協力して、大連医科大学生物プラスティネーション研究所を設立。1999年には工場も建設されました。ハーゲンスからドイツでプラスティネーションを学んだ隋鴻錦氏は、現在、同大学の解剖学教室主任教授を務め、中国におけるプラスティネーションの第一人者になっています。



中国では、多数の社員を使って標本作製を行っており、大連の第二のプラスティネーション研究所には、647体の遺体を保管していた記録があります。その中で、頭蓋骨に銃弾の穴がある2体は大連大学から提供されたもので、処刑された囚人であった可能性があると推測されています。また、ハーゲンスはキルギスのビシュケクにある国立医科アカデミー (Kyrgyz State Medical Academy) でもプラスティネーション研究所を指揮しています。


中国では、死刑囚からの臓器移植が問題になっていますが、未だに、詳細は明らかになっていません。医療ツーリズムにて、慢性腎不全患者などが日本から中国に渡り、臓器移植を受けて帰国しても、日本では免疫抑制剤投与などの医療を拒否される場合があり、問題になっています。これは、日本国内で臓器売買が禁じられているためです。もちろん、先進国に於いては、日本に限らず、禁止されています。


この様な、世界的な趨勢の中で、自由都市ベルリンに、科学とエンターテイメントを癒合した、人体博物館が誕生した事は、興味深い事実です。標本は、本人の希望により作製されたことになっていますが、本当にそうなのか、更に、標本の入手経路も不明です。標本は、つり輪をさせられたり、奇妙な体位をとらされ、更に、象やライオンなどの動物標本と同じ空間で展示されているのです。生前の本人の希望にそぐわない形で、商業目的で、見せ物にされていることに、倫理的な疑問を感じます。