Chapter3  新田マン


京都競馬場名物の円形パドック


大学時代の友人に新田マンという輩がいた。彼は俺とは違い、ギャンブルというより競馬をこよなく愛していた。

有名大学を卒業したにもかかわらず就職もせず、工員のアルバイトをしながら淀(京都競馬場)に通っていた。競馬場に通いやすいようにあえて京阪電車沿線に住んでいるとも言っていた。

彼は何があっても競馬開催日には必ず京都競馬場にいた。誰かとつるむわけでなく一人でパドックにたたずんでいる。なので彼に会いたければ土日の午後に京都競馬場のパドックに行けばよかった。

 

そして阪神や地方開催の日にも、やはりパドック近くのモニター下にいた。


最後に彼にあったのはもう15年くらい前になるだろうか。その当時、彼はもうセミプロレベルで、馬券で年間400万円くらいは稼いでいた。工員の給料は夜勤もあるのにもかかわらず年収200万もいかないと言っていた。おそらく独身の身、馬券で十分食べていくくらいは稼げていたので、仕事はお付き合いか暇つぶし程度で続けていたのだろう。

彼は開催される中央競馬の全てのレースを予想していた。だが馬券を買うのは決めたレースのみ、しかもパドックや返し馬で気に入らなければ一切買わいというスタンスだった。なので1レースも馬券を買わずに帰る日もあった。しかし、何故か馬券を買っていないレースでも一喜一憂していた。

 

依存症の俺には到底マネできる技ではなかった。

彼が主に狙うのは500万円クラス(1勝クラス)のレースで、確実に勝ち上がると見た本命馬の単勝1本勝負だった。まれに馬連で1点か2点という買い方もあったが、ほぼほぼ単勝を買っていた。

 

その確実な本命馬に1回あたり30万円投入していた。

大体このような本命馬の単勝オッズは2倍を切ってくる。おそらく平均1.5倍くらいなんだろうと思う。この配当だと、的中しても次のレースで外せばたちまち赤字だ。しかし新田マンが馬券を外しているところは見たことがなかった。というよりそんなに軽々しく馬券を買っていなかったというほうが正しかったのかもしれない。

 

彼曰く、馬券を外すのは年に1回か2回だと・・。繰り返しになるが俺には到底マネできない技だ。

今はコロナだったり改修工事だったりで、新田マンは何処でどうしているのだろうか。きっとどこかで馬を見ているのは間違いない。

 

もう連絡先すらわからないが、また京都競馬場が再開したらパドックで会うことができるだろう。


つづく