戦後70年の年に、新劇の伝統を大切にする劇団の一員として、我々の先輩たち―(命をかけて新劇づくりに取り組んだ尊敬すべき先輩たちが、我々を後輩と認めるどうかはともかく)―が残してくれた一作一作の重さ大きさを目の当たりにし学ぶ幸せを、観る側、つくる側両面から体験する機会を与えられています。
先日は、文学座公演、宮本研=作、高瀬久男=演出の「明治の棺」を拝見しました。明治の日本近代化、富国強兵の元での足尾鉱毒事件を中心軸にした舞台ですが、国策の犠牲にされた人々に寄り添って闘う政治家の生きざまを複眼的に描きながら、労働者、農民を苦しめ絞り上げるシステムを、構造的に浮かび上がらせる大作でした。
初日直前の高瀬さんの急逝という不幸を乗り越えて俳優たちが紡ぎあげたアンサンブルの力強さ、時代を引き受け生きる責任の重さが胸に響いた公演でした。

さて、私も戦争へと向かっていった明治・大正の、近代日本が歩んできた道筋が描かれた芝居「動員挿話」「骸骨の舞跳」二本立て公演の稽古の毎日を過ごしています。
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【国民統制・戦争へ突き進んだ時代を描く近代戯曲二題】
「動員挿話」は岸田国士が1927年に発表した、日露戦争下での陸軍少佐とその妻、馬丁夫婦をめぐる掌編。
日露戦争への動員が下り、日本の男と生まれたならば、「国家を守るために働きたい」と敵地に向かうのが当然と説く少佐と、兵隊でないのだから行く必要がないと引き止める馬丁の妻。そのはざまで右往左往する馬丁の姿。天皇制中央集権国家として歩みだした日本、徴兵制が敷かれて久しい明治37年が舞台ですが、思想統制がまだ完結していない、一歩手前の長閑さがありながら、描かれる日常の一コマが現代日本に鋭く突きささってきます。戦後70年、平和憲法を定め、戦争の過ちを決してくりかえさない誓いを立てて69年のわが日本。それが、今や憲法を敵視する政府によって戦争が現実の問題となり、この芝居が、自衛隊員のご家族・青年たちの不安と重なって見えてくるまでに。その現実が悔しくてなりません。(私は陸軍の宇治少佐を演じます。)
「骸骨の舞跳」は、関東大震災(1923年)直後に郷里青森から東京に向かう途中で朝鮮人虐殺を見聞した秋田雨雀が、激しい憤りを込めて書き上げた戯曲です。善良で無邪気な愛すべき同胞が、豹変して朝鮮人虐殺に走ることへの失望。「動員挿話」とは対照的な、一片の詩のごとく表現主義的手法で描かれています。私は震災避難民と「朝鮮人を殺せ」と叫ぶ自警団員を演じます。戦争同様に、再び民族差別を増長し嫌韓、謙中、ヘイトスピーチがまかり通る昨今の日本の空恐ろしさにぞっとします。震災翌年に出版された戯曲は伏字だらけで、以後発禁となったそうです。
秋田雨雀が土方与志とともに学長を務めた「舞台芸術学院」の出身者が創立した青年劇場ですが、この「骸骨の舞跳」上演は初めてです。

新進気鋭の若手・大谷賢次郎氏が現代の演出で新たに命を吹き込みます!
小さなスタジオながら、空間を埋める俳優と観客が、全身で伝え、受け止める舞台になるはずです。ご期待ください。
チケットのお申し込みは劇団へ直接でも、私あてでも結構です。お待ちしています。
【キャスト】

葛西和雄  藤木久美子  広戸聡
島本真治  秋山亜紀子  大山秋
真喜志康壮  矢野貴大  星野勇二
安田遼平  傍島ひとみ

【場所】
青年劇場スタジオ結(新宿)

【日程】
7月10日(金)19:00
7月11日(土)14:00 / 19:00
7月12日(日)14:00
《7月13日(月)休演日》
7月14日(火)14:00 / 19:00
7月15日(水)14:00
7月16日(木)14:00 / 19:00
7月17日(金)19:00 
7月18日(土)14:00 / 19:00
7月19日(日)14:00
7月20日(月)14:00

※開場は各公演の30分前です。

【チケット】
前売券発売中!
一般=4,500円(消費税8%含む)
U30(30才以下)=3,000円(消費税8%含む)
◎日時指定・自由席
◎団体割引・障がい者割引、高校生・演劇養成所割引あり(劇団のみ受付)
◎会場は階段を下りた地下二階にございます。