(渡海 蓮)





思い返せば。


午前中の診察を終えて


昼食を一緒に摂ったのが最後。


通いの医師がやってくれた診療の


全てのカルテに目を通して


ふと気がつくと・・・


俺の征司郎がいない・・・






・・・どこに行った?


寝室にもリビングにも


家中どこにも見当たらず・・・





義母「蓮先生。


夕飯が冷めてしまいます」


蓮「あ、はい。今、行きます。


そちらに征司郎いますか?」


義母「はい?????」





クリニックを閉めて


義実家側の通路から中に入る時


いつもの征司郎のサンダルを探したけれど


征司郎のではない靴があるだけで


それは同じサイズだけれど


俺の征司郎のものではなかった。





雪彦「わぁ♡美味しそう」


義母「いただきます」🙏


雪彦「いただきます」🙏





なるほど。


靴の主、雪彦氏がいた。


髪・・・いつから黒髪だったっけ・・・





義母「ほら。冷めちゃうから!」


蓮「・・・いただきます」




さっと食べて


自分の分の食器を流しまで運ぶと


携帯電話を再びチェックした。




・・・着信なし。


変わらずラインなし。


やはりメールもなし。 


もう一度、ラインにメッセージを入力。




✉️「どこにいる?」


・・・既読もつかない。





蓮「ちょっと、出掛けて来ます」


雪彦「一緒に行くよ!」


蓮「あ、ゆっくり、どうぞ・・・」





お義母さんは


雪彦氏を征司郎だと思っているのか?


いたって落ち着き払って


頬の絆創膏を貼り替えてやったり


普通に給仕したり・・・


・・・まぁ。


なんだかよく分からないけれど


ニコニコしている雪彦氏を


追い出すのも・・・なぁ・・・


義実家のリビングだし。


俺に権限ないし。


お義母さんが良いなら・・・





蓮「・・・行ってきます」





ひとり車に乗り


サメジマホテルズへまず行ってみた。


昨夜。


無理を言って部屋をとってもらったのに


結局泊まらずに


家に帰ってきたから・・・





フロント「既にチェックアウト済みです」


蓮「そうですか・・・」


フロント「お部屋をご用意できますが?」


蓮「あ、いや・・・」




征司郎が居ないなら用はない。




サメジマホテルズを出た俺は


鹿島の海沿いをゆっくり走らせた。


携帯電話は静かなまま・・・


義父の病院は既に面会時間外で・・・


他に探すあてもなく・・・


気がつけば大野に来ていた。





何も言わないで来てしまった。


いきなりだと


母さん・・・心配するだろうか?


それでも・・・


征司郎がいない、という一大事に


落ち着かない自分が


裸の心のまま相談できる相手は


自分の親以外に思いつかなかった。





和「お家には雪彦さんが?」


智「雪彦さんと入れ替わったのなら


総合病院に居るのかもしれないな」


和「渡海のお父さまの病室、とか?」


智「あるいはサメジマホテルズの


雪彦さんの部屋にいる・・・可能性は?」




・・・そうか。


・・・そうだな。


一度は立ち寄った場所だけれど


もう一度探しに行くことにした。





智「雪彦さんに振り回されているのか?」


和「征司郎さんと蓮のふたりのことに


他の人は誰であっても関係ないわ。


すぐに見つけてあげて」


蓮「うん」





・・・なぁ。


・・・征司郎。


かくれんぼをするならさ。


そう言ってからにしてくれよ・・・


それ、最低限のルールだぞ。




かつて実家の庭に隠れたまま


出て来られなくなった小さな妹は


もう・・・母親になったぞ。


征司郎は・・・


多くの患者さんを助けるヒーローで・・・


・・・いい大人じゃないか。


どこへ行ったんだよ・・・


こんな俺をひとり残して・・・