(渡海 蓮)




クリニックの休みの日に


お義父さんの様子を見に


ふたり揃ってお見舞いにきた。






渡海母「お父さん。


征司郎と蓮先生が、揃って来てくれましたよ」





義父は穏やかに眠っていた。


柔らかな春の陽光を浴びて


胸が静かに上下していた。





この瞬間も頑張っておられる・・・





征司郎が足を摩ってやり


義母がそっと額を撫でる。


親子水入らずに・・・と


一歩退いた時





・・・雪彦氏・・・





廊下からの視線に気付いた。


その物憂げな視線は


何を物語っているのか・・・





「残酷なことを言うんだね。


俺に、家族はいないよ」





あの正月の出会いを思い出していた。


家族はいない、と言い切った雪彦氏・・・





静かに廊下に出ると


雪彦氏は背を向けた。


そのまま五歩後ろを歩く。


・・・あの日。


敵が味方か、と考えあぐねて


味方だと直感した自分の


あの感覚を信じたい。




「今出来る最善の方法で患者を救いたい」




そう言ったこの男の良心を信じたい。


大切な大野の家族に・・・


この男を会わせたあの日の自分を信じたい。





雪彦「・・・これ。なんだか、分かる?」





ヒラヒラと俺の目の前にチラつかせた


茶封筒に入っていたものは


先日のDNA鑑定の報告書だった。






雪彦「征司郎に・・・


あ、いや。自分で、渡す。


その方が、いい。


そうするべきだ」


蓮「同席しても?」


雪彦「そうやって・・・


いつも守ってやってるの?」


蓮「俺と征司郎は一連托生。


生まれ変わっても同じ蓮の上で


再び巡り合う。


俺は自分の生涯をかけて


征司郎を大切にすると心に誓ったんだ」


雪彦「・・・ふぅん・・・


イイオトコだね、ムッシュ♡」





ふー・・・っと


俺の耳に息を吹きかけて・・・





雪彦「寂しいんだ。


抱っこだけでもいいから・・・


キスもその先も求めないから・・・


俺の部屋に来てよ。


サメジマホテルズのスイートルーム。


部屋番号は・・・617・・・」



蓮「・・・非番は・・・いつですか?」



雪彦「・・・今晩」






病院の長い廊下で


飴色の瞳が俺をとらえた。





真っ白な肌


頬は紅く染まり


薄い唇から吐息が洩れる・・・


クリームパンみたいに可愛らしい手が


俺の手を掴んだ。






征司郎「・・・蓮。


ここにいたの・・・」





伸びた影が・・・重なる。





雪彦「どこまでも優しい人だね・・・


ムッシュ・・・くふふ・・・」



征司郎「その・・・封筒・・・」



雪彦「約束したんだ。


ムッシュと・・・今晩。


サメジマホテルズの俺の部屋まで


取りに来てくれるんだよね・・・?」


蓮「征司郎と伺います」


雪彦「だ、め。


ムッシュひとりで、来て。


それか・・・


征司郎ひとりを寄越してもいいよ。


ずっと・・・入れ替わりたかった。


その絶好のチャンスだもん」


蓮「何を・・・言っている?」


雪彦「探したんだ。


DNAの由来を・・・


本当の両親を・・・ずっと・・・


だけどそこには。


もうひとりのホンモノがいた。


それでも俺も・・・存在しているんだ。


この瞬間も。


ほら、生きてる・・・ひとりぼっちでも」



蓮「・・・・・」



征司郎「雪彦。


何を・・・言ってる?


天城のおばさんは・・・?」


雪彦「もう。見送ったよ。


爺ちゃんも・・・ママンも、ね・・・


自分らの看取りの為に子を作る、なんて


こっちのことは何も考えちゃ、いない。


無責任に作っておいて


遺された子のことを憂う時間もなく


先に死んでいくなんて・・・


あんまりだよね・・・」


蓮「・・・それは。


征司郎も聞くべき話ですか?」


雪彦「ふふふっ。


こんなに賢くて優しいムッシュ。


征司郎のモノはなんでも欲しいけれど


ムッシュが一番だよ♡


優しく・・・シテ欲しいな・・・」








二役を完璧にこなすニノちゃんは


さすがだな、と思う一方で・・・


私が親ならば。


自分の腹を痛めた幼い双子の片割れを


自分の保身の為に離すなど


到底できないだろうな・・・と思いました。


雪彦氏が可哀想過ぎる。その名も儚いし・・・


私の書く母性の塊、和ちゃんが泣いて怒るぞ。


そして、このお話の続きは


アメ限が良いかもしれませんね・・・


『続・ブルーペアン』も含めて


(特に『続・ブルーペアン』3小さなドナーのクダリ)


全話読んでおられる方(いいね必須)のみ


新規アメンバーとして承認させていただきますね。


既にアメンバーの方はそのままでお読みください。


それにしても心臓外科医って


めちゃくちゃ体力集中力必要なお仕事ですよね・・・


一見さんからの変なクレーム等来ましたら


速攻で全話アメ限に移します。


いつもの皆さまはいつも通り(^^)


コメントお待ちしております。


まだ続くので・・・


雪彦氏と征司郎が力を合わせて


父親の不名誉な過去の手術をやり直すその先まで


なんとか無事にお届けしたいので


どうぞ宜しくお願いします。