(智)



夏休みの終わりの日。


やっぱり障子に描いた和を触ってた。 


もう完成にしてもいいんだけど・・・


いつまでも手放せず


ずっと・・・手を入れていたかった。





智母「あら、和くん。いらっしゃい」


和「お邪魔します」





ドキンと胸が跳ねる。


本人が来たよ・・・


こっちに帰ってきて


お互い怪我をしていたし


和の母ちゃん在宅ワークで


うちも婆ちゃん母ちゃんいるから


・・・ふたりきりになれなくて


んで・・・


あれきり・・・行き来していなかった。


五日ぶり・・・かな・・・





和「よお」


智「お、す」





パシャパシャパシャ📷


パシャパシャパシャ📸





来るなり


俺ごと例の作品をカメラに納めていく。





和「題名は?」


智「『愛しい人』」


和「・・・・・」


智「あ、いや、・・・え、と・・・


『月下美人』・・・とか?


『月下の人』・・・とか?」


和「『月下の人』ね」





もう包帯が取れたのか


和の真っ白な足は


ハーフパンツからスラリと伸びて


片足を庇う様子もなかった。





和「怪我・・・だいぶ治ったね」


智「うん」




俺のこと・・・


優しく撫でてくれる。




婆ちゃんと母ちゃんが


台所からこっちを見ているけれど


和の手が触れたところ・・・


熱く感じる・・・





和「ポートフォリオ、作成するよ」


智「ポートフォリオ・・・?」


和「この作品を写真と言葉で紹介するの」


智「いや・・・これは、出さない」


和「他に何か描いたの?」


智「・・・・・」


和「これしか描いてないんでしょ?」


智「・・・だけど・・・」


和「これで、勝負しようよ」


智「・・・・・」


和「悩むな。考えるな」


智「・・・・・」


和「・・・大丈夫だから」


智「・・・何が?」


和「智は智のままで・・・


そのままで大丈夫だから・・・」





俺は俺のままで・・・




和は自分家からノートパソコンやら


何やら色々持ってきて


三時間ほどカタカタやったと思ったら





和「よし。コンビニ行こう」


智「コンビニ?」


和「うん。印刷予約したから」


智「印刷予約?」





8月下旬。


まだまだ残暑厳しい炎天下。


俺と和は


マンションから


一番近いコンビニに出掛けた。





和「あ、コピーですか?


お先にどうぞ。めちゃいっぱいあるんで」





何人か先にやってもらって


やっと順番待ちがなくなったら


和は印刷機に100円玉を何枚も入れた。





で。




智「何枚出てくるの?」


和「うーん・・・50枚くらいかな」





50枚!





智「しかも、これ、カラーじゃん」


和「・・・写真は。一応カラーにした。


だけど・・・やっぱり写真だけは


写真屋で印刷してもらう方が、いいかな」


智「・・・へ・・・?」


和「とりあえず、これでやってみよう」


智「うん」





なんかよくわかんないけれど


ひとつ分かっている確かなことは


和は、すげえってこと。





和「表紙、どうするんだっけ・・・


あれだ。あの、募集要項。


募集要項にフォーマットあっただろ?」


智「あ、これ?」


和「うんうん」





バーコードを読み取って・・・




打ち込んでいくのは


俺の名前・・・ 





それも、プリンターから出てきた。





和「・・・まあ。


これはまだ、叩き台だから」


智「叩き台?」


和「先生からダメ出しもらって


もっと良くしていくから」





へーーー。


やっぱ。


お前。


最強だな。