(和)



ロクに眠れもしないのに


昼頃になるまで


無駄にゴロゴロしていた。


時計の針が12時を回って


流石に腹も減ってきて


起きることにした。





和「あれ?・・・居たんだ」





ダイニングテーブルの上には


会社の端末とノートパソコン


携帯電話にコーヒー。





和母「しばらく在宅勤務にするわ」





へぇ・・・


めずらし。





和母「池田の病院。


さっき問い合わせをして


振込もネットで完了したから」


和「ありがと」


和母「もんじゃのタネ、あるわよ」


和「さんきゅ」





いつもなら。


迷わず智を迎えに行くんだけど。





母さんが在宅で仕事をしているし。





まだゆっくり休んでいるかも・・・


俺より酷い怪我をしてたし・・・




なんて思う間に


母さんがホットプレートを出してきて


もんじゃを焼いてくれた。





和母「あのさ」


和「・・・ん?なに?」


和母「アメリカ留学のことだけど」


和「・・・・・」





唐突に、アメリカ。





和母「折角チャンスがあるのなら


やってみたらどうかしら?」





スっと出されたのは、TOEFLの案内。


短期の交換留学の時も


母さんに勧められたことを思い出した。




和母「費用のことなら心配しないで。


父さんも会社から借りられるらしいし


母さんも頑張るからさ」


和「・・・・・」


和母「智くん」


和「・・・智が、何?」


和母「ふたり相手にあんな怪我・・・」


和「母さん、なんで知ってるの?」


和母「大野さんから聞いたから」


和「・・・ふうん・・・」


和母「あの・・・障子の絵。


すごいわね。惹き込まれる。


すごい才能だと思う」


和「うん」


和母「だけど智くん。


あれを出すつもりないらしくて・・・」





あ。


そう、それ。


そう言ってたな・・・





和母「聡い子よね。


あれを出したら、世間様から


大切な人を守れないから・・・」


和「大切な人・・・って?」




智の・・・大切な人って・・・




和母「鏡、見ておいで」


和「・・・・・」




和母「あんたがさ。


腹をくくってアメリカ留学でもなんでもさ。


別にアメリカでなくてもいいけどさ。




あの絵で・・・勝負させてやれる・・・




で、あんたはあんたの道を切り拓く。


それくらいの強さ、あるでしょう?」




和「・・・・・」




和母「ふたりがどこまで進んでいるかは


母さん知らないけど・・・」





まだ何も・・・進んでないよ?





和母「だけど。


圧倒的真実として。


智くんも、和を好きなんでしょう?」




和「・・・・・も?」




和母「で、あんたも・・・


小さな頃からずっと・・・


智くんを好きだったでしょ・・・」





なんで知ってるの?


って、顔に、出た///





和母「あんたの親を18年やってたら


わかります」




和「そりゃ・・・どうも」




和母「先のこと、よく考えて・・・


決めるのは、和自身だし。


アメリカでなくてもいいけれど。


自分の足で歩いて行くんだから。


親は先に死ぬんだから・・・ね?」


和「・・・・・」





智・・・あの絵・・・


出さないのかな・・・





他に何も。


描けていないのは、知っていた。




で。


あの絵が・・・




和母「素人目にも


あの絵は・・・


本当に、素晴らしいから・・・」





って、ことも・・・


俺もよく分かっていた。