(智)





久しぶりの自分家のベッド。


なんで・・・眠れないんだ?


俺。


どこででも眠れるのが自慢だったのに。





智母「智。ちょっと、傷見せなさい」


智「どこも折れていないし


こんなの擦り傷だ!」





そう言って


母ちゃんにも傷を触らせなかったけれど





和「痛かったね」





優しく・・・触れて欲しい。




あの指で


あの唇で


俺に


そっと


そっと・・・





ここひと月。


当たり前に隣にいたから。


今、壁一枚隔てているのが


どうにも落ち着かない。


違和感しかない。






こんな壁。


なくなっちまえばいいのに。


そう思ってデコピンするみたいに


指で弾いた。





和「いってー」



 


アイツの声で脳内再生される。


きっと、そう言う。


痛くなくても。


俺のこと、見上げながら・・・


きっと、そう言う。






自分の部屋に


例の障子を入れたかったけれど


扉のすぐ横に勉強机やら本棚やら


で、すぐにベッドだから


何かに当たって紙が破れちまうのも


嫌だから・・・


リビングに立て掛けたまま・・・ 





それも、どうにも落ち着かない。





結局。


眠れないままに。


あの絵を触りたくなって


朝日の差し込むリビングに行った。






え?




目を擦ってよく見る。




えええ?







智「・・・婆ちゃん。何してんの?」






婆ちゃんが障子にスリスリしていた。


鼻を押し付けるようにして・・・




智婆「大阪の家の匂いがするねん」





婆ちゃん家の古い障子だかんな。


昭和の匂いというか・・・


日にも焼けているし


何処となく埃っぽい昔の匂いもする。






婆ちゃんは障子を愛おしそうに


目を細めてじっと見ては


障子の枠を何度も何度も撫でていた。





智婆「和くん・・・綺麗やね・・・」


智「うん」





もうちょっと手を入れたい。


軟らかい鉛筆の先を丸くして


影を入れたい。





智「ちょっと・・・いい?」





髪はちょっと後れ毛があって


ここはサラサラで


こっちはうねりがある。


首筋は・・・細くて


口元が・・・ちょっと緩んでいて・・・





智母「あら。起きてきちゃったの?


あの、四六時中眠ってた智が。


どうしちゃったのよ?」


智婆「今日は歌のお稽古、やめときます」


智母「はぁ・・・お義母さんまで


どないしはったん?」


智婆「里心ですわ・・・」


智母「里心・・・」


智婆「恋しいんですわ・・・」


智母「お義母さん。泣かんでも・・・」





推薦をもらうためには


何か作品を仕上げないといけない。


んで。


この絵は・・・


あまりにも俺の和への恋心が


溢れてしまっているから・・・


表には、出せない。





だけど。


この絵を触りたくて仕方がなかった。


他の絵なんか描けなかった。





とにかく今は。


この絵を触っていたかったんだ。


壁一枚さえも・・・


邪魔に感じて・・・


どうしようもなく・・・


ただアイツに触れたくて・・・