(和)




バイト先のコンビニは


夕方から大学生らもシフトに入る。




店長「お。和くん。慣れてきたねぇ」


和「はいっ」




店長が


ガサゴソと


賞味期限が切れるパンやらお弁当を


自分家に持って帰る分と


僕らバイトに配ってくれる分を


バックヤードに下げて


そこにおやつも入れてくれた。


シュークリーム。


智が好きなやつ。






和「いつもすみません」


店長「いや。助かっているんよ。


高校生の時給、少なくてごめんやで。


同じ仕事してるのに、悪いなぁ」


和「十分いただいているので大丈夫です。


おにぎり一個で頑張れます」


店長「和くんはマインドも最高やなぁ」





丸山「か、和くん?」


和「はい?」




この人は、丸山くん。


この近くの大学に通っていて


夕方から3時間ほどだけ一緒に働く。


こっちは連日8時間強入ってるから


「これ、教えて?」なんて訊かれる。


将来は教師になる為の


教育学部の一年生ならしくて


あまり年の差も感じない。



 


丸山「よかったら、帰り。


その・・・飛行機、見に行かへん?」


和「飛行機なら・・・真上に」





今も轟音を響かせて


頭上を飛んでいるし


わざわざ見に行かなくて、大丈夫。




丸山「猪名川の河川敷から・・・」


和「真っ直ぐ帰ります」





いただいたお弁当とおやつを


リュックに大切に入れて背負う。


智の胃袋を満たすための


今日イチのミッション。





丸山「あ、ほんなら。


送って行くわ」


和「・・・・・」




終わりの時間。


一緒なんだよね・・・


むげに断る理由も思い付かなくて


丸山くんと阪急池田駅近くから


智のお婆ちゃん家の方向へ進んだ。





丸山「こっち。高級住宅街やけど


実家なん?」




えー・・・


答える必要、ある?





和「・・・実家の、実家?お婆ちゃん家」





あれ?


二宮家ではないもんな・・・


なんて言えばいいのかな?


・・・友達ん家?


友達・・・


いや。


義実家の、実家・・・のがしっくりくる。


要するに智のお婆ちゃん家だ。




和「お婆ちゃん家」


丸山「もしかして、下宿探してる?」


和「・・・え?」




どうしてそうなる?




和「探してませんよ」


丸山「もし。よかったら。


ぼ、僕のアパート、この近くで・・・」


和「お腹を空かせた子が


ひとりでお留守番しているんです」




ぺこり、と頭を下げてご挨拶。


智のお婆ちゃん家はもう少し先だけど


この辺りにお住まいなら


ここらで失礼するのがいいよね。





丸山「え?ひとりでお留守番て、犬?


それとも、弟さん?」





犬、ではありません。


智です。


弟でもありません。


心の・・・恋人です♡





和「おつかれさまでした。


ここで失礼します」





そう一気に言って


頭を下げると


そのまま走り去った。




「ちょっと、ちょっと」




え?


まだ何か用事?


そう思って振り返ると





それは丸山くんじゃなくて・・・





「無視したらあかんわ」





車に乗った人らが声を掛けてきた。





和「・・・・・」




知らない人の車に乗ってはいけません。


徐行して幅寄せしてくる車から


一目散に逃げようとした。


あと少し。


あと少しで、智のお婆ちゃん家。





キキキキキー!


「ちょっと乗っていき」




危ない。


轢かれそうになった。


乱暴に横付けしてきた車の後部扉が


スーッと開いたと思ったら


中から手が伸びてきて





あ、リュックが・・・


智のお弁当が・・・





和「離してください」





「コンビニからずっと見てたんよ。


可愛いなぁ、と思って。


逃げられへんよ」





・・・気付かなかった。


気持ち悪・・・





「あの兄ちゃん、振ったんかいな」


「エリートっぽいのにもったいないなぁ」





下品そうに嗤う男らは


車のドアを閉めてしまった。





「空港近くのホテルにしよか」


「防犯カメラに写るぞ。


複数で入ったら目立つし」


「じゃあ河川敷で」





なんの相談?


まさか女子に間違えられた?





一か八かで言ってみる。





和「僕、男ですけど」





「そんなん、どっちでもええねん」





・・・え?


どうしよう・・・


和くん、ピンチ。


どうやって逃げようか・・・