和「うわぁ。ここ、空港が見える」





婆ちゃん家のベランダからは


伊丹空港が一望できた。


夕方に近付く高い空には


半分のお月さまがまだ白いまま


ポツンと浮かんでた。





智「夜になったらさ」


和「うん」


智「ジェットポイントまで行こうぜ」


和「ジェットポイント?」


智「うん。


お前に、見てもらいたい景色がある」


和「へえ・・・楽しみ♬」






まだ日があったから


家中の雨戸を開けて風を通すと


庭の草花から夏の匂いがした。






家はある程度片付いていて綺麗だった。


玄関傍の納戸には


収集を待つ不燃ゴミが纏められていた。


父ちゃんが。


ある程度、頑張ったのがよく分かった。





自治体のパンフレットで


ゴミの出し方ルールを確認。


ふたりして何度も読み合わせをする。


資源回収に出せるもの、曜日。


粗大ゴミの連絡先、値段など。






和「これ、連絡するね」


智「あ、うん」





親父。


途中までやったはいいけれど


きっと仕事の都合で


東京に帰らないといけなくなって


そのままにしないといけなくて・・・





やっぱり和がいてくれて、よかった。





俺らが滞在中にまだお世話になる家電と


リユースできそうなもの以外の


大きなものに


和がテキパキと付箋を貼っていく。


そこには回収日と時間が書き込まれて


買い足す粗大ゴミシールの値段を


携帯電話のメモに打ち込んでた。





な。


すげーだろ。


誰にも貸してやれねーけど。


すごいんだよ。


うちの和。


んふふふふ。





こんなの


業者呼んで30万なんて馬鹿げてるよ。


もちろん俺も。


ちゃんと手を動かしたよ。






和「・・・智。これ・・・」


智「うわー。懐かしい」






納戸の奥から出てきたそれは。


家族のアルバムだった。





父ちゃん母ちゃんの結婚式・・・


俺の赤ちゃんの時の・・・


あ、亡くなった爺ちゃんを囲んで・・・


婆ちゃん、若い頃綺麗だな・・・





和「これ。東京に送る?」


智「うーん・・・ちょっと考えてから」





感傷的になっていたら


片付けなんて進まない、けれど・・・


これは、ちょっと保留。






親が持たせてくれたおにぎりの残りを


ふたりでつまんで


冷蔵庫にあった新しいお茶2ℓを


ふたりでガブ飲みして






智「和。ちょっと散歩に行かね?」


和「うん!」





片付けの途中で埃っぽくて


しかも思い出のフォトアルバムで


ちょっとセンチメンタルになってたから


外の空気も吸いたくなっていた。






戸締りをして


財布と鍵だけをポケットに入れて


ふたりで向かった先は・・・












和「飛行機、近っ」





そう。


約束の、ジェットポイント。






もう天国へ逝ってしまった爺ちゃんが


よく連れて来てくれた散歩コース。





智「羽田の離着陸もワクワクするけど」


和「こんなに近くまでは無理だよね。


舞浜の方から見る時は対岸だし」





帰ってくる飛行機


飛び立っていく飛行機





その先に待っている人は


誰ですか・・・なんて・・・






ふたりで何機も何機も見守って・・・






智「ずっと・・・」


和「・・・ん?・・・」


智「和に見せたかった」


和「・・・・・」


智「小さい頃からずっと。


婆ちゃん家に来るたびに、ずっと。


いや、それ以外でも。


綺麗なもの見たら、いつでも。


お前に・・・見せたかった」


和「・・・ん・・・」





ぎゅっとくっついて


その夜


親から離れたことを良いことに


最終便が終わってもずっと・・・


キラキラ光る滑走路を


ふたりして見てた・・・









起承転結の起終わりです。


『浮き草暮らし』


起・・・「婆ちゃんがやってきた」


承・・・「産みの苦しみ」


転・・・「愛しい人」


結・・・「それでも愛しい人よ」




intermissionを挟みます。


お話の再開は7月を予定しております。


いつも有難うございます♡