(お部屋の和)




あんなにも怖かったのに


智さんに抱っこされているうちに


いつの間にか涙は止まった。


Galleryの裏手から


智さんに抱かれたまま


階段を上がって行くと


そこには智さんの


プライベート居住空間が広がっていて・・・


もう。


智さんの縄張りだ。


もう。


僕にとっても、ホーム。


「うちの子だ」と言ってくれたもん。


もう。


何も、怖くない。





ソファーにそぅっと下ろされた時


離れがたくて


着物の襟をぎゅっと掴むと


智さんの胸がはだけてしまった。





智「・・・何か・・・された?」


和「・・・・・」





智さんの胸に顔を埋めて


首を左右にぶんぶん振ると


ふわりと智さんの匂いがして・・・


鼻をスンスン言わせながら甘えた。





智「何か怖かったんだろう?


だから、泣いたんだろう?」





そうだけど・・・


他の男の人に


髪にキスされた、なんて


首筋を撫でられた、なんて


口が裂けても、言いたくなかった。





苦しそうに


僕を切なく見つめる智さんが・・・


たまらなくて・・・





和「・・・智さんが・・・好き・・・」





そう呟いて


額を胸に押し付けて甘えた。





さっきの知らないおじさんなんか


もうどうでもいい。


あんなのに負けるもんか。


ここに。


比べられないほどに・・・


心安らぐ人がいる。





圧倒的な智さんの体温が


智さんの匂いが


僕の心とカラダを癒す・・・





もう、離れないもん。


もう、離さないもん。





ねぇ・・・このまま


僕を奪ってよ・・・


自分も上半身裸になろうとして・・・






和「・・・え・・・?」





智さんの背中ごしに見えたものを


確認する。


目をコシコシ擦って


ちゃんと、見る。





テーブルの上にも


壁にも床にも


数え切れないほどたくさんの


絵、絵、絵・・・





そこに描かれているのは・・・


・・・僕・・・だよね?





智「なんで、泣いたんだ?」


和「しーっ。黙って」


智「何か酷いことされたのか?」


和「それどころじゃないから!!


そんなこと、もうどうだっていいから!!!


黙って!!!」




僕は。


ソファーからペタンと床に降りると


一枚一枚を手にとって見つめた。





舞妓さんの恰好をしたものは


何枚もあった。


顎の黒子に目が行くけれど


その少し上


半開きの薄い唇・・・


その奥にちらりと見える桃色の舌も


濡れた睫毛も


襦袢からはみ出る足も・・・





さらに


智さんの部屋着を着ている僕。


高校の、制服姿の僕。




どの僕も


熱くこちらを見つめていて・・・


ということは。


描いた智さんを見つめ続けてたってこと。


智さんは、逢えない間も


僕を見つめ続けてくれたってこと。





それは


想像するだけで


何もかもがエロティックで・・・


あまりに素敵で・・・




智「・・・・・」




振り返って見つめると


ソファーに座った智さんが


僕をじっと熱く見つめていた。





和「智さん、僕を、好き?」




・・・だよね?


そうでないと


こんなにも。


僕の絵ばかり


描かないよね・・・?





智さんを見つめたまま


シャツのボタンに手を掛けた。


見つめたまま


ひとつ、ひとつ・・・外して・・・




ねぇ・・・


今も熱く見つめているじゃない・・・





和「・・・僕を・・・好き・・・?」





好きって言ってよ・・・





ソファーからゆっくりと立ち上がった


智さんが


無言のまま、ぎゅっと抱きしめてくれた。


シャツはまだ全部を脱ぎ切れていないのに


肌と肌が触れ合って


・・・気持ちいい・・・





和「ちゃんと、言ってよ」


智「黙れと言ったり


ちゃんと言えと言ったり


どっちだよ・・・


本当に、仕方のない子だな」





和「・・・ぁ・・・」





膝に乗せられて


腰をぎゅっと抱かれると


智さんの唇がもう目の前にあって


もう我慢できなくて


首を傾けて近付く智さんの唇に


僕は自分のそれをぎゅっと押し付けた。




和「・・・好き・・・」


智「・・・ん・・・」


和「このまま・・・僕を・・・」




奪って・・・と言おうとして




しーっ、と指で唇を塞がれた。





智「そのままで聞いてくれる?」


和「・・・うん・・・?」




智「店の厨房をね」


和「・・・うん・・・」


智「お前のやりやすいように


替えようと思ってて・・・


いや、まだ何も手を付けてないんだけど」


和「・・・うん・・・」


智「冷蔵庫も大型のを入れて


食器とか調理器具とか、さ。


使いやすいのを揃えて。


将来。ここで。


お前の店・・・


やらないか?」


和「・・・!!!・・・」


智「俺と、お前で・・・」




それって・・・


それって・・・





ふたりの、未来の、約束・・・?





胸があり得ない速さで


ドクンドクンいう。





もう・・・奪われた。


僕ごと、丸ごと・・・


僕の、魂ごと・・・




とっくに奪われていたけれど。


今、もう一回、奪われた///