(お部屋の和)





この後、料亭の方へも見学に


なんて話になっていたけれど


Gallery OHNOのカレーについて


ママさんが語りはじめて


場が盛り上がってしまっていた。





僕は。


智さんと半身をくっつけているだけで


そこから全身に熱を帯びて


なんだか・・・やばくなっていた。


それを落ち着けようとして


飲み物を多く飲んじゃって


お手洗いにも行きたくなっちゃってた。




どうやら。


VIP room専用のお手洗いがあるらしく


潤さんに言われた通りに


仕切りの奥へ進むと隠し廊下があった。


このお部屋の他にも


同じような個室があり


♠️マークや♣️マークを付けられて


綺麗なお兄さん達が出入りしていた。





「化粧室ですね?こちらです」


「あ、ありがとうございます」




用を済ませて


スッキリして


冷たい水で手を洗い


鏡をそっと覗きこんだ時





「・・・!!!」


「お綺麗・・・ですね」




僕の真後ろに立った別室のお客さんが


僕の髪におもむろに触れたから


ビックリした。




「ふわふわだ・・・」


「あの。・・・やめてください」


「・・・こっちの部屋。


よかったら・・・ちょっとだけ。


寄って行かない?」


「いえ、僕は・・・結構です」




結構です、と断ったのに


髪から頬に降りた無遠慮な両手は


後ろから僕の頬を包み込んだ。




「こんなに頬を紅く染めて・・・」




鏡の中の僕はもう


怖くて涙目になっていた。




「いけない子だな・・・」





その人は


頬から耳に


そしてシャツの内側の


襟元へと手を忍ばせて


僕の髪にちゅ・・・と口付けた。




「ここ、こんなに熱くなってるよ」




僕の首筋をまさぐる手・・・




どうしよう。


怖くて、足がガタガタ震える。


僕。


この人にこんなことされるの嫌だ。


とても嫌だ。


すごく嫌だ。





和「・・・ぁ・・・やめて・・・」




触れられたところから


ピクピクと震え出し


とにかく・・・気持ち悪くて・・・





和「・・・ぁの・・・本当に。


・・・やめて・・・ください」





嫌なのに・・・


怖くて・・・足がすくんで・・・


動けない・・・




「君、ゾクゾクしてるね?


ここ・・・感じるの?」




こんなの、嫌なゾクゾクです。


虫唾がはしる、ってやつです。


その手を振り解いて


一目散に逃げ出したいのに


足がすくんで、震えてしまっていた。





その時。


コンコン、と


控えめなノックの音が聞こえて




潤「失礼します」




潤さんが来てくれた。




*ララァさんのお写真です*





(愛の釣り人)





俺のカレーの話をママさんが熱く語り


社長さんがうんうんと頷く中


俺の和がお手洗いに行くというから


一緒に立ち上がると




ママ「VIP room専用の化粧室があるの。


この部屋のすぐ奥よ。潤、ご案内して。


それでね、このカレーをね。


ねぇ、聞いてる?マスター?」




袖を強引に引っ張られて


もう一度、距離を置いて座り直した。




だけど潤だけが戻ってきて


俺の和は、なかなか戻らない。


心配になってもう一度立ち上がると


潤が走って様子を見に行ってくれた。





俺も気になって追いかけると


中年の男性が中から出てきて


♠️マークの部屋へと入って行った。





化粧室を覗き込むと




潤「あ、智さん」




俺の和は足に力が入らないのか


潤に支えられて辛うじて立っていた。




智「もう。連れて帰るよ」




抱きあげて


さっきの部屋には戻らずに


真っ直ぐ出口へと進むと


潤がふたり分の荷物を持って


見送りに来てくれた。


心配そうに社長やママまでやってきた。




社長「あれ?坊ちゃん。


大丈夫かいな?」


茂子ママ「嵐山のお父様に連絡します」


智「いや。僕が、介抱します。


ご馳走さまでした。・・・失礼します」





翔くんは・・・大人だし。


潤もいるから大丈夫だろう。





智「・・・大丈夫?」





四条大通りに出たところで


顔を覗き込むと




和「大丈夫じゃ・・・ない」




目尻に涙を溜めて


それがポタリと頬に流れていった。




智「ここから、すぐだから」




タクシーを拾うより


家まで歩いた方が早い。


人目を避けるように細い路地へと進み


目尻から頬に落ちる涙を唇で拭いながら


五条のGallery OHNOへと連れて帰った。




そのお姫さま抱っこは


舞妓さんの恰好をして


足を挫いた君との出逢いを


思い出させるものだったけれど・・・


今、俺の腕の中で


浅く呼吸を繰り返す君は・・・


あの時よりも


ぎゅっと俺にしがみついて・・・




和「今夜・・・泊めてくれるの?」


智「お家の人に、許可をもらえたらな」


和「訊いてみる」




だけど、もう。


しがみつくこの手も


この熱い身体も


この確かな重みも


とても・・・離せそうになかった・・・





無防備に


俺を信用して


その身を預ける君の


全てを奪ってしまいたい欲求が


何度もこの身を駆け抜ける・・・




夜風に吹かれて舞う花びらは


もう桜ではないというのに・・・