(お部屋の和)





四条大宮から嵐電に乗ること、しばらく。


竹林の中の・・・嵐山に着いた。


地図アプリを開いて


道案内させるも・・・





ここって・・・何・・・?





駅なのに足湯の温泉があって


着物の生地のポールが何本も立っていて


そして観光客がワンサカ居る。


東京もそれなりだけれど


リュック背負った外国人の多さに驚いた。






和父「嗚呼、それはキモノフォレストだな」


社長「京友禅ですわ」





父親の勤める料亭に着いて


さっき見かけた景色を言えば


そんな単語が出てきた。





社長「夜にはライトアップされて


恋人同士で歩くとそれなりにムードあるよ」





そうなんですね・・・


というか。


はじめまして、のおじさん。


妙に親しみやすい。


これが、関西の、ノリ・・・?





和父「ほい。賄い飯、食っていけ」





父さんが。


手際よく出してくれたのは


・・・カレー丼・・・だった。




和「いただきます」🙏





和風だしがよく効いていて


これはこれで、美味しい。


タケノコも入ってるし


シーフードも・・・


・・・なるほど。


懐石料理のリメイク、だな・・・





和父「神楽坂の料亭。


続いているそうだな」


和「うん」


和父「厳しいだろう?」


和「・・・そう、なのかな・・・」





厳しいのかな?


確かに。


大根おろしのやり直し、とか。


日常茶飯事だ・・・




お茶碗の向き


お箸の揃え方


食器の出し方から下げ方まで


さらに、いろんなものの温度管理。


細かく指導されたことを挙げると


キリがないけれど・・・





社長「あそこで半年続いたんなら


なかなかのもんでっせ。根性あるわ。


何処へ行っても大丈夫やわ」


和「・・・そう・・・ですか・・・」


和父「母さんは。


調理師の養成学校へ通わせたいらしい。


父さんとしては。


そのまま神楽坂の料亭でお世話になっても


こっちの料亭で実務体験を続けても良い。


あるいは。


全然他人さんの店に行っても良い。


和は、どうしたい?」




和「京都の、調理の学校って、思ってた。


・・・だけど・・・」




和父「だけど?」




例えば。


例えば。






Gallery OHNO とか・・・///






和「もう少し、よく考えたい」





社長「それなら。


坊ちゃん。うちに見学に来るか?」





和「・・・え・・・?」




・・・うち、って、どこ?





和父「この人は、うちの社長。


祇園にある大きな料亭の一番偉い人」





祇園の、大きな料亭・・・





社長「お母さんの意見もあるやろから


勝手には決められへんけどな。


うちやったら、働きながら


調理師やらソムリエやら


免許もバンバン取れるし。


料亭、レストラン、他にも色々


ほんまに色々


和洋中なんでも展開してるから


好きな方面にいけるで」


和父「社長のとこは。


ホストクラブまであるからなぁ」





・・・ホストクラブって・・・





社長「うちは、カタギの店でっせ」


和父「分かってます」





ここ嵐山の料亭もかなり大きくて


板前さんが大勢いた。


ずらりと並んで下拵えをするのは圧巻で


和食を極めるのもかっこいいな・・・


なんて思った。





社長さんとは


夕方6時に嵐電の駅で待ち合わせをして


店を失礼した。





再び地図アプリを開いて


母さんの待つ家へと向かう。


静かな竹林の中をしばらく歩き


渡月橋を渡って桂川を越えると


小さな古民家に着いた。




 



和母「和。待ってたよ」





母親は記憶よりも少しふっくらとして


白髪の混じった髪をひとつに束ねていた。


ニコニコと出迎えてくれて


お茶を淹れてくれた。





和母「賄いのカレー、食べてきた?」


和「うん」





キッチンからは香ばしい匂い。


母さんの・・・手料理の匂い。





和「だけど、まだ・・・


お腹、ちょっと空いてる」




ちょっとだけ、嘘をついた。




和母「和の好きなもの、色々作ったよ」




もとい。


本当にお腹、空いてきた。


母さんの、ハンバーグ・・・


婆ちゃんのとちょっとだけ違う味・・・


どっちも美味しいけれど


やっぱり母さんの味・・・最高。


少し子どもに戻って


食べてすぐに寝転んでゲームを開いた。





恋の憂いには蓋をして・・・





僕のラインに気付いてよ・・・






なんて切ない想いから


ちょっとでも解放されたくて・・・