(熱血の相葉!)




思い返せば半年前、高二の秋。


あの時。


俺は本当に肝を冷やした。





京都修学旅行初日の「古都体験」。


染物、織物、焼物、茶道、華道、写経


面白そうなのが、いっぱいあった。


中でも、舞妓体験は一番人気で。


舞妓さんの恰好をさせてくれて


自由に京都の町へと遊びに行けるって。





お部屋の和は。


色白モチ肌が最大の武器だから。


半分ジョークで




雅「一日舞妓体験なんて、どう?」




本当に軽い気持ちで言ってみた。




「えー?」




なんて言いながらも。


同じ班の奴ら、男子も女子もノリノリで


「和奴」とか「和姐さん」なんて


のせて、のせて、のせまくって。


で。


ひとりずつ舞妓姿で京都の町を練り歩いて


インスタ映えを自撮りしましょう、と。


班の全員が京都の町へと繰り出した。


南座を背景に鴨川沿を歩く、とか


先斗町の路地裏散歩、とか


四条通で京都市バスとツーショット、とか


シャッターチャンスはあり過ぎた。


思い思いのところでパシャリ、記念撮影。





みんな同じようにメイクした筈なのに。


お部屋の和だけ、ちょっと別格だった。


美人過ぎた。


違和感、なさ過ぎた。






いやー。


着物も帯も半端なく重たかったからさ。


で、俺、汗っかきだから。


さっさと脱いでしまいたくて


早々に勝ちを諦めて


旅館の部屋に戻ってくつろいでいた。




ひとり帰ってきて


またひとり帰ってきて・・・




ところが夕飯の時になっても


お部屋の和だけ、帰って来なくて・・・





先生「おーい、相葉。お前のツレは?」


雅「一日舞妓体験までは一緒でした」


先生「一日舞妓体験ね。


ふむふむ。問い合わせてみるか」




慌てて携帯電話に掛けてみた。


アイツからは・・・全くもって反応なし。





可愛いから・・・


まさか・・・


ナンパされてるとか?


いやー、さすがにそれはないっしょ。


お部屋の和も、それなりに立派なもん


ちゃんと付いているんだし。


そのうちふらりと帰ってくるよね。




夕飯を終えて風呂も入って


大浴場からゾロゾロ部屋へ戻る時


先生たちが大広間に集まって


何やら慌てているのを見かけた。




「親御さんに連絡を」


「警察に届けるか」


「いや、大事にするのは、ちょっと・・・」


「もう少し待ちましょう」





どの先生も険しい顔をしていた。






ひとりにするんじゃ、なかった・・・


あの時。


一緒に回っていればよかったのに。


どうして先に帰ってしまったのか。





消灯時間まで


ロビーでお部屋の和を待っていたけれど


帰って来なくて・・・


先生に「部屋に戻りなさい」と促された。




俺が「お部屋の雅」になってんじゃん。


心配で心配で眠れないまま


既読の付かないラインを


じっと見つめているうちに


朝になってしまってた。





結果から言うと・・・


お部屋の和は無事だった。


だけど俺、心配MAXにしてたからさ。


怒鳴っちゃったんだよね・・・





雅「何処行ってたんだよ!」💢


和「そんなに熱くなんなよ」





訊いても教えてくれないんだよ。


あの日、どこでどうしていたのか・・・


しかも。


翌日の自由行動でも


ひとりでどっか行っちゃうし。





で。


こっちに帰って来てからも、なんか変。


それまでと大いに変わったことは。


下校時に「寄るところあるから」って


メトロ東西線方面へひとり歩いていくの。


手ひらひらさせて。


お前・・・どうしちゃったの?





それで。


気になって仕方ない俺は。


ある日、とうとう後を尾けてみた。





辿り着いたのは。


神楽坂の・・・料亭だった・・・