(悟)



目覚めた時には


僕はまだ領くんの腕の中にいた。


きゅ・・・っと腰を抱かれて


んっ・・・っと変な声が洩れた。




領「おはよう」


悟「お、おはよ」





穏やかな美しい朝だった。


六甲山麓は春の息吹を感じさせ


海は遥か南までキラキラと輝いていた。





領くんが洗面室を使っているうちに


僕は曾祖母の和室の奥の鏡台で


さっと顔を整えた。


曾祖母の部屋には


独立したお手洗いと水道が付いていた。





早起きをする習慣の曾祖母は


既に洗濯ものを干しに庭へ出ていたが


僕らが目覚めたことを知ると


朝食の準備に姿を見せてくれた。






領「おはようございます。


お世話になります」


曾祖母「おはようございます。


ええもん、ようけ北海道からいただいて


すんまへん」





領くんの家から大きな箱で


いくつも荷物が届いていた。


北海道のお土産も届いていたらしく


冷蔵庫からチーズやバターの包みを出して


パンを焼いてもらう隣で切り分けた。


三人での食事はすこぶる美味しかった。





「若い人らは肉が必要やろ」と


ベーコンや卵も焼いてくれて


それをクロワッサンに挟んで食べた。


いつも玉ねぎが箱で届く家だから


輪切りにした酢漬けなどの常備菜に


曾祖母が鉢で育てているグリーンルーフや


ハーブの各種が添えられていた。


明治生まれの80代にしては


ハイカラな食事を好む曾祖母の味付けに


領くんも舌鼓を打った。





領「すごく美味しいです」


悟「でしょ?」





僕はとても誇らしくてドヤ顔を見せた。





朝食後


領くんはピアノの基礎練習をし始めた。


父さん母さん仕様の硬い鍵盤が


踊るように弾んだ音を出す。


その自由な演奏は僕の心をも弾ませた。


領くんにかかると


ハノンでさえも踊り出したくなっちゃうよ。





曾祖母が洗い物をしたり


昼食用にじゃがいもを剥く隣で


僕は立体模型の続きをやった。





そうだな・・・


将来、領くんと一緒に住むとしたら


海辺の家がいいな・・・


潮騒をBGMに


一階には曾おばあちゃんの部屋


二階には僕と領くんの部屋


防音の音楽室も作って・・・




あれ?


これじゃ、まるっきり、うちじゃないか。


ひとりでツッコミを入れながら


空間ベクトルに写した。




曾祖母「悟は誰に似たんだか。


難しいことを考えるねぇ」


悟「ここ、おばあちゃんの部屋だよ」





曾祖母が嬉しそうに座標軸を覗き込む。





曾祖母「私の部屋まで、ありがとうね。


悟は優しい子に育ったね。


しかし三次元を二次元に落とし込むとは。


面白いね」





高等女学校を優秀な成績で卒業した曾祖母は


僕のしていることを理解してくれた。


曾祖母は、人生の少し先を歩む


アメリカ帰りのご婦人らとも親交があった。


優秀な女性を次々と世に送り出したその人は


今となっては東京都小平に眠る。





曾祖母「領も悟も、お昼はコロッケね」





道産じゃがいもはホクホクに茹で上がり


バターの香りと混ざり合って


とても美味しそうな匂いがした。





僕らはそれぞれ音楽に数学に精を出した。





この同居は上手くいくと思った。


思っていた。





母さんが帰ってくるまでは・・・





この先、少し険しいところを通りますが

ハッピーエンドですので・・・(^^)

律母さんも幸せになれるように書いています。